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逆説!奈良にうまいものあり 「イメージ逆手にPRを」 - こだわりの地元食材 歴史をベースに創造

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「あまから手帖」編集顧問 フードコラムニスト 門上 武司さんに聞く

 作家・志賀直哉の随筆から「奈良にうまいものなし」と言われる奈良県だが、その随筆に込められた「素材が良いから派手な料理がない」との真意はあまり知られていない。それどころか、奈良には和食やフレンチなどの優れた名店がいくつもある。フードコラムニストで関西の食雑誌「あまから手帖」の編集顧問を務める食のスペシャリスト、門上武司さん(69)に、「逆説!奈良にうまいものあり」をテーマに語ってもらった。

 

「奈良にはおいしいものがたくさんある」と語る門上武司さん=大阪市内

 

 

県民にこそ知ってほしい
奈良の地鶏に野菜、日本酒のうまさ

優れた素材、隠れた名店あり 認知度向上がカギ

 ―「奈良にうまいものなし」というイメージが今も根強くあります。こうした言葉やイメージについてどう考えていますか。


 門上 今では非常に誤解のある言葉やイメージだと思います。現在の奈良にはおいしいものがたくさんあるからです。
 たしかに、東京や大阪、京都と比べれば、まだまだ数は少ないかもしれませんが、奈良にもおいしい料理が食べられる店が増えています。

 

 私もかつては、そういうイメージ(奈良にうまいものなし)を持っていましたが、20年ほど前に「あまから手帖」で初めて「奈良特集」を企画したことで、そのイメージが一変しました。実際に取材してみると、知られていないだけで、奈良にはおいしいものがたくさんあることが分かりました。

 

 まずは地元(奈良)の人にこそ、そのこと(奈良にはおいしいものがたくさんあること)に気付いてほしいと思います。

 

 ―奈良の食文化の特徴はどういうところにあると思いますか。

 

 門上 奈良には京都の京料理のようなしっかり確立された食文化はないかもしれませんが、茶粥(がゆ)に代表されるような非常に「ドメスティック」(地域に根付いた)な料理があります。柿の葉寿司(ずし)などの保存食がいくつかあることも特徴だと思います。

 

奈良の地域に根付く料理 茶粥

 

奈良の伝統的な保存食 柿の葉寿司

 

 (インターネットやSNSにより)情報が流通する時代になり、奈良の料理人の目が開かれた印象があります。それまでは(外からの)刺激がなかったため、食べる側も含め「これくらい(の料理)でいいか」という意識があったと思います。

 

 ただ、そうした(情報が流通する)時代になって、東京や大阪などの料理と比べられることになり、食材に対するこだわりなど、奈良の料理人の意識が大きく変わりました。それに伴って、料理のクオリティーもぐんと上がりました。

 

 また、ここ10年ほどで、奈良の料理人と(地元食材の)生産者とのパイプがとても強くなり、ネットワークが広がりました。このことは、奈良の食文化にとってプラスとなります。

 

 

奈良ならではの歴史と文化 新たな料理をクリエイティブするヒントに

 ―奈良の食文化の魅力についてはどうですか。

 

 門上 京都の場合、開けても開けてもまだまだ扉(開拓すべき料理店)があるなというイメージです。それとの対比で言えば、奈良はその扉を一つ一つこれから開けていくというイメージで、また違った楽しみがあります。

 

 奈良には、他の地域にはないほどの豊かな歴史や文化があります。そこで、例えば、都があった時代の奈良で食べられていた料理を現代的な感覚でクリエイティブ(創造)したら、面白いものが生まれてくるかもしれません。それは、当時の料理をそのまま再現することとは違います。あくまで、それ(当時の料理)をベースに新しい料理を創造すべきです。

 

 また、奈良は1300年前から海外との「ハイブリッド」を実践してきました。中国などから多くのものを取り入れ、それらを自分たちのものと組み合わせて独自に発展させてきた土地柄です。その歴史をひもといていけば、面白い料理を生み出すヒントが見つかるかもしれません。

 

 そういう意味で、奈良はこれから食文化が花開く可能性に満ちた地域だと言えます。

 

 現在の奈良は、料理人が地元食材の魅力に気付き、それを受けて生産者がさらにいいものを作ろうという段階にあります。あとはそれに、奈良が1300年前から実践してきた「ハイブリッド」を掛け算していけば、他の地域にはない面白い料理が生まれてくるでしょう。

 

 料理人と生産者をつなぐ「目利き」(中間業者)が奈良でも育ってくれば、可能性はさらに広がっていきます。(両者のことがわかる)目利きにより、その店に適した食材が届くようになれば、よりカスタマイズされた料理が提供されることにつながります。

 

 奈良の食材については、鶏肉の「大和肉鶏(やまとにくどり)」が素晴らしいです。実際、大和肉鶏は、そのクオリティーの高さから他の地域の料理人からも注目を集めています。奈良は(土壌の)土が良いため、野菜もとてもおいしいです。

 

クオリティーの高さで注目される 大和肉鶏

 

 

 また、奈良は日本酒発祥の地と言われています。そのため、奈良には(京都や兵庫などの全国区の酒処にも負けない)優れた日本酒を造る蔵元がいくつもあります。料理との相性を意識した日本酒がもっと生まれてくれば、奈良の食文化はさらに豊かになるでしょう。奈良の酒蔵は横のつながりが強いという印象もあります。

 

日本酒発祥の地といわれる奈良の酒

 

 

門上武司さんおすすめの店 バラエティ豊かな名店がいくつも

 ―奈良でおすすめの店はありますか。

 

 門上 日本料理の「白(つくも)」(奈良市)は、建築も含め素晴らしい店です。店内の随所には、そこの料理人が修業した京都やニューヨーク、ロンドンの要素がちりばめられており、非常に凝っています。その一方で、食材は奈良のものにこだわっています。料理についても、西洋的な考えと、奈良の伝統行事や歴史、文化を非常にうまく「ハイブリッド」させており、とても注目しています。

 

 スペイン料理の「アコルドゥ」(同市)もおすすめです。この店も面白い店づくりとなっていて、店内では過去、現在、未来が表現されています。ガラス張りの厨房はとてもシャープで、まるで宇宙船のようです。近くには東大寺があり、歴史が感じられます。料理には大和当帰(やまととうき)など、奈良の食材がふんだんに使われており、ここでしか食べられない料理が味わえます。

 

 フランス料理では、「ラ・トラース」(同市)です。東京で腕を磨いたシェフの洗練された料理が楽しめます。奈良の農園との関係も深く、食材に恵まれたレストランです。

 

 カジュアルなところでは、イタリアンレストランの「トラットリア ピアノ」(同市)がおすすめです。大和野菜を使ったピザもあり、カジュアルでありながら、料理のクオリティーはとても高いです。

 

 そばの「玄」(同市)の名前も挙げておきたいと思います。

 

 他にも、奈良には行く価値のある店がいくつもあります。

 

 

奈良の食を世界に発信するチャンス フォーラム開催に期待大

 ―今年は国連世界観光機関主催の「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」が日本で初開催され、県内が開催地となっています。奈良で同フォーラムが開催される意義をどう考えますか。

 

 門上 料理は、その土地の文化を含めて味わうものだと考えています。(その土地の食文化に触れることを目的とした)ガストロノミーツーリズムの狙いも、まさにそこにあります。そういう意味では、1300年以上の歴史に支えられた豊かな文化のある奈良は、日本の食文化の魅力を世界に発信する場としては、うってつけだと思います。これ(フォーラムの開催)をきっかけに、奈良の食文化の再発見にもつながればと期待しています。

 

 さらに言えば、「奈良にうまいものなし」というイメージを逆手にとって、『奈良にはこんなにおいしいものがあるんだ』ということをアピールする場にしたらいいと思います。

 

 奈良でフォーラムが開催されることの意義はとても大きいと考えています。

 

 ―奈良の食文化の魅力をさらに高めていくにはどうすればいいでしょうか。

 

 門上 それには二つ(のポイントが)あります。一つは、圧倒的な一番(の料理店)をつくることです。そういう店が一つでもあると、他の店の料理人にとって刺激になり、奈良の料理店のレベルが底上げされます。

 

 もう一つは、奈良の料理人がもっと地元の良さを知ることです。奈良の食材や歴史、文化について深く知ることで、料理に深みが出てきます。

 

 奈良の食には、まだまだ可能性が秘められています。食べる側も含め、みんなで奈良の食文化を盛り上げていくことが大事だと思います。

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