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大和古寺お参り日記【25】 - 大野寺(上)

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 新緑の5月初旬、室生の里にある大野寺を訪れた。川のせせらぎとそよそよと頬をなでる風が気持ちいい。 

 

 681(天武10)年、役行者(えんのぎょうじゃ)が開き、室生寺の西の門として栄えた大野寺の前を流れる宇陀川の対岸には、自然の岩に彫られた日本最大の摩崖仏(まがいぶつ)がある。国史跡に指定されている。

 

境内にある遙拝所。窓枠にすっぽりと仏様が収まっている。

 

 まず、境内にある遙拝所から手を合わせる。ここからでも線刻された弥勒仏の姿をはっきりと確認できる。摩崖仏は、興福寺の荘園だった鎌倉時代前期に同寺の雅縁僧正の発願、岡田明知住職によると、中国、宗時代の石工集団が、わずか7日ほどで彫り上げたと伝わる。岩の高さは約33メートル、仏身は11・5メートル。1209(承元3)年の開眼供養には、後鳥羽上皇も京都から輿に乗って参列したという。

 

 約800年がたち、コケや砂に埋もれたり、剥落によって全容が見えにくくなったため、1993年に大規模な保存修理も行われた。

 

保存修理が行われ、全容がはっきりと見えるようになった。
優しいまなざしの弥勒仏。
川の水は絶えず流れ続けている。

 

 摩崖仏は、川の向こう岸を彼岸(あの世)にたとえ、弥勒の浄土を表しているのだという。2億6千年後の次の世に弥勒菩薩が弥勒如来となって現れる姿なのだそう。「戦火が絶えず貴族の地位も危うくなった当時、未来に希望を託して造られたのだと思います」と岡田住職。向かって左下には、弘法大師が描いたものを模した息災増益を願う梵字(ぼんじ)の尊勝曼荼羅も刻まれている。

 

 山門を出て川岸から摩崖仏を拝観すると、此岸(しがん=現世)と彼岸の世界の表現をより感じた。石に彫られた先人たちの思いは今も変わらず川の流れの向こうに宿る。川岸に腰掛け、未来を救う願いが込められた仏様を日が傾くまで眺めていた。

 

 (文・伊藤波子 写真・藤井博信)

 =次回は21日に掲載予定。奈良新聞デジタルでも掲載中=

 

 

大野寺

宇陀市室生大野1680

電話:0745(92)2220。

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