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ストップ肝臓疾患 ALT値30超えたら早期に受診 - 12月9日、奈良マラソン2023会場で啓発活動

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肝機能数値をチェック「奈良宣言 ALT>30」普及へ

奈良宣言2023 ALT>30 私たちも応援しています!
動画出演 加藤雅也さん 間寛平さん 有森裕子さん 高橋礼華さん

 

 

奈良マラソンでお会いしましょう

 肝がんや肝炎の予防へ、奈良県肝疾患相談センターは12月9日の奈良マラソン2023会場で肝炎検査を行い、スペシャルゲストの有森裕子さんや間寛平さんらによる啓発リレーメッセージ動画を配信して、「ALT>30」の普及と早期検査を呼びかける。ALTは肝機能の検査数値の一つで、数値が30を超えた場合は早期の受診が必要だ。

 

 日本では、成人の3人に1人が肝機能の異常があるとされるが、多くの患者は病院で受診・治療を受けていない。背景には、“沈黙の臓器”と言われる肝臓特有の性質があり、倦怠(けんたい)感や黄だんなどの症状が出て病院に行った時には、肝硬変、肝細胞がん等重症化している可能性がある。医療費の負担も大きい。

 

 これらリスク回避の指標が、今夏奈良で開かれた日本肝臓学会総会で発表された「奈良宣言2023 ALT>30」。厚生労働省も、同ALT値が30を超えた状態を異常値と定めている。

 

 同センター長で、県立医大消化器・代謝内科准教授の赤羽たけみさんは「手遅れになる前に病気のサインをいかに早く発見するかが重要。肝がんなどから一人でも多くの県民、国民の命を守りたい」と話す。

 

赤羽たけみ准教授

 

「奈良宣言2023 ALT>30」とは

 

 第59回日本肝臓学会総会が2023年6月15・16の両日、奈良市の奈良県コンベンションセンター等で開催された。この総会において同学会は初めての宣言となる「奈良宣言」を発表した。奈良宣言2023は一般的な健康診断でも肝機能検査として血液検査で広く測定されているALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけの医療を受診することを勧めている。これはかかりつけ医による採血や超音波検査などを受けることで、肝疾患の早期発見・早期治療につなげるためだ。健康診断などの血液検査で肝機能を示すALT値がもし30を超えていたら、慢性肝臓病(CLD)が隠れているかもしれない。

 

「肝臓病で命を落とすことがないように」

インタビュー 奈良県立医科大学消化器・代謝内科教授 第59回日本肝臓学会会長
吉治仁志氏

 吉治仁志教授

 

 奈良発・同宣言を啓発するために、奈良県立医科大学消化器・代謝内科教授で第59回日本肝臓学会会長の吉治仁志氏にお話をうかがった。

 

沈黙の臓器と呼ばれる肝臓

―肝臓の特徴について教えてください。


 吉治 肝臓は右側の肋(ろっ)骨の下にあり、0.9~1.4キログラムあり、体の中で最も大きな臓器です。毎分およそ1.5リットルの血液が送り込まれ、体内に入った有害な物質を解毒する解毒機能、肝臓でつくられた老廃物を流す胆汁の生成と分泌を行う生成機能、食事から摂取した糖質・たんぱく質・脂肪をグリコーゲンとして貯蔵し、必要に応じてエネルギー源として補給する貯蔵機能が主たる働きで、例えて言えば東京ドームぐらいの設備と能力を有しています。


 肝臓の特徴として「沈黙の臓器」と言われるように、肝臓病になっていても自覚症状がなく、症状が出始めたときは手遅れになっていることです。肝臓は再生能力が高く、ある部分の機能が破壊されても自分で再生してしまうので、なおさらその傾向があります。長年の過度の飲酒は、脂肪肝や炎症を起こし、気がつかないうちに肝硬変へと進行する可能性があります。また飲酒以外でも、コロナ禍やデスクワーク中心による運動不足、外食が多いといった不規則な食生活、ライフスタイルを背景に、脂肪肝から肝炎等への罹患人口も増加しており、とりわけNASH、すなわち非アルコール性脂肪肝炎は、一定数が進行性で、そのまま肝硬変や肝細胞がんになる危険性をはらんでいます。

 

 

肝機能疾患は体にも経済的にも重大なダメージ

―肝機能疾患になると、どのような症状が出ますか。

 

 吉治 日本では3人に1人が肝機能に何らか異常があると言われており、これは高血圧や糖尿病の前段階より高い頻度です。にもかかわらず、多くの患者は病院で受診・治療をうけていません。これは看過できない状況です。この背景には、ダメージを受けても症状が出にくい「沈黙の臓器」といわれる肝臓特有の性質があります。倦怠(けんたい)感や黄疸などの何らかの症状が出て病院に行ったときには、既に重症化し肝硬変や肝細胞がんになっていることも少なくありません。

 

 この時点でも、既に肝臓に余分な脂肪が溜まり、働きが悪くなっている可能性があります(また肝移植にかかる費用は1000万円前後〈保険診療の場合300万円前後レベル〉。まさに、肝臓は自身の体にも、経済的にも〝肝心要〟の臓器と言えます)。

 

 

健康診断でALT をチェック

―肝機能障害を簡単に調べる方法はありますか。


 吉治 肝臓の病気のサインを知る方法は簡単至極で、毎年行っている健康診断での血液検査結果にあります。要チェックポイントは肝機能検査に関する数値の一つ「ALT(GPT)」で、ALT値が30を超えた状態は「異常値」とされています。


 そもそもALTは、体内でアミノ酸の代謝等重要な働きをする酵素のことで、主に肝細胞に存在しています。ところが何らかの異常で細胞が破壊されると、肝細胞内のALTが血液中に漏れ出します。コレステロールや血圧のように、将来の病気を予測する生活習慣病の検査値とは異なり、ALT値が高いということは、既にいま現在、肝臓が障害を受けていることを示唆しており、肝臓が重要臓器ということを踏まえると、このALT値をもっと重要視するべきだと考えられます。

 

 

肝硬変・肝臓がんにならないために

―肝硬変・肝臓がんはどのように進行していくのですか。

 

 吉治 ALTが漏れ出しているということは、肝細胞の破壊が続いていることに他ならず、肝臓はこの状況に対して、肝細胞の再生を試みます。しかし肝細胞の破壊と再生が繰り返されることで、肝臓が線維化し最終的には組織が硬くなり、本来の機能を十分には果たせなくなる肝硬変へと進行する危険性があります。さらに肝細胞の破壊が長期間繰り返されると、遺伝子異常から肝臓がんが発生するリスクも上昇します。

 

 厚生労働省によると、肝炎ウイルス感染者だけでなく、肝炎ウイルス非感染者においても、ALT値が30以上の場合、肝がん発生の危険性が高く、30歳未満比で30~69歳で6.5倍、70歳以上で60.5倍にのぼります。この点からもALT値が重要であるとともに、数値のチェックによる早期検査・早期治療が必須と言えます。

 

 

手遅れにならないために 奈良宣言を

―第59回日本肝臓学会で採択された「奈良宣言2023」の背景と思いをお聞かせください。


 吉治 このように、多くの現代人がその可能性をはらんでいるのが肝機能異常です。手遅れにならないためにも、自身を守るためにも「病気のサインをいかに早く発見するか」が、何よりも重要と言えます。そのキーワードが「ALT30」です。

 

 奈良を会場に日本肝臓学会総会が開催されるのは、30年ぶりでした。今回の総会では、肝臓学会としては初めての宣言となる「奈良宣言2023」が打ち出されました。キーワードは、まさに肝臓異常の分岐点となる「ALT>30」です。

 

 特に奈良県はウイルス性肝炎感染の検査率が低く、また肥満傾向が強いと言われるなか、検査受検率上昇へさまざまな取り組みを展開しています。「奈良宣言2023」は、それらの取り組みの節目となり、肝臓がんをはじめ、肝機能異常克服のスタートとなります。
 

 B型・C型肝炎については治療薬が開発されています。また肝硬変も近年、薬剤が開発され、早い段階で発見すれば健康な人と同じようになる可能性はあります。それだけに検査による早期発見が重要です。
 

 また治療ですが、アルコールはやめることが一番良いのですが、なかなか難しいと思います。その場合、減酒でアルコール摂取量を減らすというのも、一つの治療法かなと思います。
 

 とにかく肝臓病は、早期に発見すれば健康体の人と同じように過ごすことができます。そのためにはALT値が30を超えていれば、かかりつけ医に相談して採血してください。そして必要なら専門医の診察を受けてください。そのための指標が「ALT30」です。一人でも多くの人が肝臓病で命を落とさないことが私たち専門医の願いです。皆さんの肝臓と健康を守る「奈良宣言2023 ALT>30へのご協力をよろしくお願いいたします。

 

 

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