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逢香の華やぐ大和 元興寺(奈良県奈良市)

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石仏に揺らぐキキョウ

 書家の逢香さんが県内の花の寺を訪ねる「逢香の華やぐ大和」。今回は世界遺産に登録されている奈良市の元興寺です。(久後力)

 

ならまちを散策する逢香さん(左)と辻村副住職=奈良市中新屋町

 

 

絵馬に自身の作品も

 梅雨の合間、県内で今年初の猛暑日となった7月初旬、逢香さんは朝一番に元興寺に到着。同寺の収蔵庫である法輪館へ向かった。

 

 館内には五重小塔(国宝)や聖徳太子立像(国重要文化財)などの宝物が安置されている。南側の一角に絵馬のコーナーがあり、ガラスケースに画家の杉本健吉さん(故人)や書家の今井凌雪さん(同)ら著名人が手掛けたさまざまな図柄の絵馬を展示。

 

 同寺に出没した妖怪とも鬼ともいわれる「元興神(ガゴゼ)」の絵馬は、杉本健吉さんの絵が使われてきたが、令和の時代になって逢香さんにバトンタッチ。ガラスケースの上に今年の絵馬が飾られている。

 

自身がデザインした今年の「ガゴゼ絵馬」を紹介する逢香さんと辻村副住職(左)=奈良市中院町の元興寺法輪館

 

 

 案内してくれた辻村泰道副住職は「当寺は鬼の発祥地といわれており。ガゴゼは悪い鬼を退治する鬼神のような存在。節分会では『福は内、鬼は内』と豆をまきます」。自分の内にある鬼が出ていくように、との願いも込められているのだという。

 

 ガゴゼの図柄は逢香さんになって変更しており、角がない。「角のない姿も有名なのでそちらにしました」と逢香さん。その姿は恐ろしくも愛らしくもある。

 

逢香さんが描いた今年の「ガゴゼ絵馬」

 

 

南都系浄土信仰の中心地

 元興寺の前進は飛鳥大仏で知られる飛鳥寺(法興寺)で、遷都に伴って平城京に移転した。極楽堂(本堂、国宝)と禅室(国宝)の屋根には飛鳥寺で使われていた創建瓦が残る。辻村副住職の説明で歴史をたどりながら逢香さんは極楽堂へ。本尊の「智光曼荼羅(まんだら)」は奈良時代の同寺の僧、智光法師が感得した極楽浄土を描き、平安時代以降、同寺は南都系浄土信仰の中心地となっていった。逢香さんは「智光さんの思いがここに祭られ、ならまちが守られている感じがします」と話した。

 

飛鳥時代の瓦も使われている極楽堂と禅室=奈良市中院町の元興寺

 

本尊の「智光曼荼羅」=奈良市中院町の元興寺極楽堂

 

  最後に中世~江戸時代の石塔、石仏が整然と並べられた「浮図田(ふとでん)」を参拝。見頃を迎えたキキョウの青や白の花が石仏の間に揺れ、まるで逢香さんを歓迎するよう。「キキョウは天に向かってまっすぐに伸び、根本のマリーゴールドも色とりどり。本当にきれい。華やぐわぁ」とみとれた。

 

たくさんの石仏が並ぶ「浮図田」で見頃を迎えたキキョウ。根本にはマリーゴールドも=奈良市中院町の元興寺

 

 

辻村副住職とコラボ作品も

 続いて逢香さんが辻村副住職と向かったのは同寺の北側、猿沢池と三条通に面した同市椿井町の「ホテル天平ならまち」。奈良の文化を体験できるホテルとして2021年4月に開業し、書家や僧侶、アーティストの揮毫(きごう)作品が全ての部屋に飾られている。

 

 その一室に逢香さんと辻村副住職のコラボ作品も。逢香さんは「ならまちにある世界遺産元興寺 元興神という鬼がいるらしい」、辻村副住職は「元興神」の文字を、それぞれ白壁に墨書している。

 

逢香さんと辻村副住職の作品が宿泊客を迎える「ホテル天平ならまち」の一室=奈良市椿井町

 

 制作以来の訪問という逢香さんは「懐かしい。一緒に書きましたねえ。宿泊された方がガゴゼって何と思って調べ、元興寺を参拝してらえればうれしい」。辻村副住職は「垂直の壁に墨で書くというのは初めてでした」と振り返り、「逢香さんのアドバイスのおかげで何とか完成できました」と改めて感謝した。

 

 

なら麦酒ならまち醸造所

「なら麦酒ならまち醸造所」でクラフトビールを手に東さん(手前左)と話す逢香さん=奈良市紀寺町

 

夏にピッタリ「ならまちエール」

 辻村副住職と別れた逢香さんは元興寺の南東にある「なら麦酒ならまち醸造所」(奈良市紀寺町)へ。17年3月に奈良市内で初のクラフトビール醸造所としてオープンし、季節の旬の素材を使ったビールなどを提供している。

 

 店内のカウンター内にはたるにつながったビールの注ぎ口「タップ」が横一列にズラリ。カウンターに座った逢香さんは、大和ほうじ茶を使った同店の定番ビール「ならまちエール」を注文し、グラスを傾けた。「夏にピッタリ。苦味もあり、ほのかにほうじ茶の香りも」と満足そう。同店のマネジャーの東道子さん(30)は「苦味と甘味のバランスがあるビールです。(ほうじ茶の)色合いも出ていますよ」と話した。

 

 店内で一息ついた逢香さん。外国人観光客が珍しそうに見つめる中、一日の締めくくりとして揮毫した。

 

 

逢香の目

一日の思いを込めた逢香さんの書

 

 涼やかな薄青色の花が咲いている、キキョウ2輪を描いた用紙の右余白に「極楽へ伸びる」としたためた。「元興寺本堂で智光曼荼羅を拝み、いろんな人が救いを求めているんだと感じた。キキョウが天に向かって伸びている感じも印象的。ビールも味わったので『(伸)びる』と掛けて表現しました」と思いを語った。

 

 

メモ

◆元興寺

 奈良市中院町11。近鉄奈良駅から徒歩約15分、JR奈良駅から徒歩約20分。拝観時間は午前9時~午後5時(入門は午後4時30分まで)。拝観料は大人500円、中学・高校生300円、小学生100円。電話0742(23)1377。

 

◆書家/逢香(おうか)

 奈良市在住。奈良市観光大使。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。大学時代に個性豊かな妖怪に興味を持ち、「妖怪書家」としても活動。

 

 

 「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で2023年7月11日に放送されました。 

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