逢香の華やぐ大和 葛城一言主神社(奈良県御所市)
葛城一言主神社(奈良県御所市)を訪ねて
一言の願い聞いてくれる 天界に届け この思い
書家の逢香さんが県内の神社仏閣などを巡り、季節の花や土地の魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は奈良県御所市の葛城一言主(ひとことぬし)神社です。(高橋智子)
葛城古道にやってきた逢香さん。葛城一言主神社の参道で=いずれも9月27日、御所市森脇
葛城古道
奈良市内から車で約1時間。のどかな棚田の風景が広がる御所市の葛城古道にやってきた逢香さん。金剛山と葛城山の山裾を南北にのびる道沿いには、古代この地で栄えた鴨氏・葛城氏ゆかりの寺社や史跡が数多く残る。
棚田のあぜ道を赤く彩るヒガンバナ
赤と黄金の秋景色
収穫間近の稲穂は黄金色に色づき、あぜ道に咲く赤いヒガンバナとの対比が鮮やかだ。秋の景色を満喫しようと、逢香さんはその景色の中へ―。
稲穂の黄金色とヒガンバナの赤のコントラストが美しい
ヒガンバナは別名「曼殊沙華(マンジュシャゲ)」。古代インドのサンスクリット語で「天界に咲く花」を意味するという。
サンスクリット語で「天界に咲く花」を意味するヒガンバナ
「ヒガンバナはゴンギツネの話で知って、悲しいイメージを持っていたんです」と逢香さん。間近で眺めると、ヒガンバナは複数の花の集合体。反り返る花弁の中央から、長い雌しべ、雄しべを花の外に突き出す姿は火花のよう。独特な形に不思議な魅力を感じ、逢香さんは「繊細…。華やぐわ~」。
一言主の神に祈願
全国各地にある、一言主神社の総本社とされる葛城一言主神社。一言の願いであれば何でも聞いてくれる神様として、地元の人は「一言(いちごん)さん」と親しみを込めて呼ぶ。
逢香さんは拝殿で手を合わせ、心の中で「・・・」。「何を祈ったかは内緒です!」。人差し指を唇に当ててほほ笑んだ。願いは神様に聞こえただろうか?
一言の願いならば何でもかなえてくれるという葛城一言主神社
副祭神、雄略天皇
葛城一言主神社では、主祭神の一言主大神とともに、副祭神、第21代雄略天皇(5世紀)を祭る。古事記などによると、同天皇が葛城山で狩りをしていた時、自身と同じ姿をした一言主大神の一行と遭遇したという。
雄略天皇は、考古学で存在が確認できる最古の天皇。武力で豪族を制圧し、専制君主として君臨した。万葉集の1首目には、見初めた女性に贈った歌も残る。「イケイケですね…」と逢香さん。
子安信仰の乳イチョウ
拝殿の隣には、ひときわ大きなイチョウが支柱に寄りかかるようにたたずむ。
樹齢1200年の乳イチョウ
樹齢1200年。枝の根本がコブのように膨らみ垂れ下がっていることから、「乳イチョウ」と呼ばれる。母を亡くした赤ちゃんが、イチョウの乳から流れる水を飲み元気になった逸話もあり、昔から子授け祈願や子安祈願で女性が訪れる。
枝の根元から出たコブが乳房のように垂れている
イチョウの葉は小ぶりで、「観光客が地面を踏む影響で弱っている」と伊藤明宮司(52)。神社では、イチョウ保全のために土壌改良を進めている。
「ずっとここにあってほしい」。逢香さんは、傾きながら天に枝葉を伸ばす古木を見上げた。
※取材は9月27日。天候、気候などで景観が変化することがある。
銅像のモデルは前宮司
雄略天皇像
同社は日本書紀完成1300年を記念し、2020年、雄略天皇の銅像を建立。像は一言主大神の鎮まる本殿の方を向いている。
逢香さんは銅像の周囲を一周して眺め、「お顔がシュッとしてイケメン!」と一緒に記念撮影した。
銅像のモデルとなった前宮司
実は銅像のモデルは、像が完成する半年前に亡くなった前宮司、伊藤典久さん。同社ホームページ「お参りのご案内」のページでは、像のりりしい風貌を全方位から堪能できる。
逢香の目
ヒガンバナをはがきいっぱいに描いた
「今回は初めて絵はがきに挑戦してみました!」と逢香さん。顔彩で赤いヒガンバナを紙面いっぱいに描き、「天まで届け」と揮毫(きごう)した。
「雄略天皇の『天』とかけて、天界に咲く花という意味のヒガンバナを描きました。真っ赤で魅力的なお花でしたね…」。一言主神社で一言、心の中で祈願した逢香さん。「私の願い事は天まで届いたのでしょうか…?」
メモ
◆葛城一言主神社
御所市森脇432。近鉄御所駅からコミュニティバス西コース「森脇」下車、徒歩3分。授与所の開窓は午前9時~午後3時(冬至の2日前~節分は午後4時まで)。駐車場あり。電話:0745(66)0178。
◆葛城古道
「葛城の道」コースは全長約13キロ。近鉄御所駅前から電動自転車をレンタサイクル、もしくは奈良交通バスで葛城ロープウェイ前行き「猿目橋」下車すぐ。葛城の道コース=六地蔵石仏/葛城一言主神社/極楽寺/橋本院/高天彦神社/高鴨神社/弥勒寺/バス停「風の森」―まで。問い合わせは御所市観光協会、電話:0745(62)3346。レンタサイクルは和菓子屋「あけぼ乃」、電話:0745(62)2071。
◆書家/逢香(おうか) 奈良市在住。奈良市観光大使。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。大学で変体仮名の授業をきっかけに個性豊かな妖怪たちに興味を持ち、「妖怪書家」としても活動。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。11月20日午後1時から「奈良県みんなでたのしむ大芸術祭(みん芸)」で、世界遺産・金峯山寺を舞台に書道パフォーマンスを予定。
「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で10月3日に放送。