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「奈良酒」の魅力、国内外へ発信 清酒発祥の地・奈良

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ニーズに合わせ
日本酒の楽しみ方多彩に

ファン層の拡大 蔵元の創意がけん引

 清酒発祥の地とされる奈良。原点としての矜持(きょうじ)をのぞかせつつ、奈良の地酒の魅力を国内外の人に認知してもらう動きが年々盛んになっている。奈良酒の消費拡大はもとより、地元の産業、観光の振興にもつなげようと、日本酒の新たな楽しみ方の提案など、取り組みは蔵元の周囲にも広がっている。

 

奈良の地酒で乾杯する「大和のうま酒で乾杯」イベント参加者=2019年10月1日、近鉄奈良駅前広場(奈良県奈良市)

 

 

日本の清酒発祥の地・奈良
中世に正暦寺で始まった酒づくり

 日本酒の歴史は平城京から出土した、さまざまな酒名を記した木簡からもうかがえる。中世には現在のものに近い清酒が奈良でつくられるようになっていく。

 

 奈良県酒造組合の資料によると、「日本清酒発祥之地」の碑が立つ奈良市の正暦寺では室町時代、仕込みを3回に分けて行う「三段仕込み」、麹(こうじ)と掛け米の両方に白米を使用する「諸白(もろはく)」造り、酒母の原型の「菩提酛(ぼだいもと)」造りが行われていた。近代醸造法の基本となる技術もこの頃に確立。大桶(おけ)で酒造りが可能になるなど、生産量や技術、品質が大幅に向上したとされる。

 

 また江戸期には、奈良酒は「くだり酒」として幕府からも珍重された。

 

清酒祭で菩提酛を仕込む県菩提酛による清酒製造研究会のメンバーら=1月10日、正暦寺(奈良市菩提山町)

 

 

プレミア地酒で高級路線にシフト
海外の和食人気も後押し

 県酒造組合によると、奈良県内の酒造業界にも変化の波が来ているという。

 

 飲酒人口が減少する中、日本酒ファンの拡大を目指し、全国きき酒選手権大会県予選のほか、地酒の振る舞いや鏡開きがある「大和のうま酒で乾杯」などの行事を開催。奈良市の「ならまち」には、県内28蔵120種以上の日本酒が試飲できる同組合認証の奈良酒専門店「なら泉勇斎」もある。

 

 個々の酒蔵による独自のファン拡大策も活発化。清酒発祥の地、正暦寺ゆかりの酒母「菩提酛」を再現復活し、酒造りを実践する八つの蔵元の「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」の活動はもとより、各酒蔵の蔵元開きや鉄道会社と連携した酒蔵探訪なども近年一層盛り上がりを見せているという。

 

 さらに10年ほど前からは、消費者ニーズに合わせ、全国同様、高級酒への移行も目立つように。大量生産・販売から少量生産でプレミア感のある高級酒づくりを柱にする酒蔵も増えてきている。

 

 背景にはインターネットやSNS(会員制交流サイト)の普及で消費者との直取り引きが可能になったことが挙げられる。より厳選、吟味される地酒専門店とも直接やりとりし、立ち位置を向上させている蔵元もある。加えて、高級酒に必要な保存技術の進化も見逃せない。

 

 また、外国人の和食人気に伴って食事に合う日本酒の需要も増加。海外に進出した酒蔵も増え、奈良県内でも約8割の酒蔵が何らかの形で海外との取り引きを行っているという。

 

 今後、製造工程のデータ化やさまざまな部分での技術革新が、県業界に影響を与えていくと考えられる。県酒造組合は「そうした変化が奈良が清酒発祥の地であり、優秀な日本酒を造るところという認識の広がりにつながっている」とみている。

 

県内酒蔵の奈良酒が試飲できる、なら泉勇斎(奈良市西寺林町)

 

 

奈良酒ハイボールや季節限定酒も登場

 県内各地の蔵元の取り組みとは別に、奈良の酒のブランド力向上、消費喚起・拡大を図る動きも近年さらに盛り上がりを見せる。酒類卸の泉屋(奈良県奈良市、今西栄策社長)は、奈良の飲食店と酒蔵を応援し、観光振興にもつなげようと、さまざまなアイデアを打ち出す。

 

 五つの酒蔵の日本酒を飲み比べる夏季、冬季の限定シリーズは今年で9年目。夏季は冷酒タイプの爽やかな味を楽しむ「奈良の夏冷酒」、冬季は夏季よりアルコール度数を上げて燗(かん)でもおいしい「奈良のふゆ酒」として、それぞれ統一ラベルで提供する。認知度も次第に高まっており、ギフトとしての利用も増加しているという。

 

冷酒タイプの爽やかな味が楽しめる「奈良の夏冷酒」(2021年夏ラベル)

 

 奈良市の観光協会、飲食店組合と協力し、泉屋などによる「古都のお酒で乾杯しよう実行委員会」が中心となって一昨年に完成させたのが、奈良の地酒を使ったハイボール「奈良しゅわボール」。日本酒の飲み方が、基本的には冷やと燗の二つしかないことから、ソーダ水などの炭酸で割る新たな飲み方を奈良の食を盛り上げるキャンペーンの際に提案した。

 

奈良の地酒を炭酸で割るハイボール「奈良しゅわボール」をPRする女性=2021年6月24日、奈良市内

 

 基本的なレシピは、国際大会総合3位のバーテンダーが考案。各酒蔵の銘柄ごとの風味が味わえるプレーンタイプの「古都」、リンゴ酢をアクセントにしたビネガートニック味の「暁(あかつき)」、さっぱりとしたライムとジンジャーが香る「若草」の3種が創作された。

 

 日本酒をあまり飲んでいない30代以上の女性をメインターゲットにした、奈良の地酒のハイボールは高評価。同キャンペーン後も地域ブランド・文化として育てようと、清酒発祥の地からの日本酒のイノベーション実現を掲げて取り組みをさらに推し進めた。

 

 店舗や顧客、地酒に精通した人々の意見も参考に、2年目からは使用する日本酒の銘柄は限定せずに奈良の地酒であれば自由とし、提供期間も設けない方式に変更。奈良市観光協会、同市飲食店組合、同実行委員会によるPR活動も奏功し、県内提供店舗は当初の10店から120店を超える(2021年12月現在)までに増えた。

 

 同ハイボールは、ソーダなどの割り材を増やしたり、県特産品のイチゴをあしらった飲み方を提案したりと進化を続ける。こうした動きが各方面で認められ、国や奈良市から補助を得たのをはじめ、2025年大阪・関西万博を念頭に近畿経済産業局が定めて支援する地域ブランドの一つに「奈良酒」が選ばれ、「奈良しゅわボール」の取り組みがサポートを受けて新たな商品・サービスにつながるなど追い風も吹く。

 

 今後は業務用のみならず、家庭用に普及させていくことも視野にさらにファンを増やそうとしている。今西社長(51)は「奈良に来れば飲めるものとして育ててきたが、まだまだ奈良には観光にもつながるコンテンツが少ない。アイデアを出せば多方面から協力してくれる人が現れるので、今後も提案を続けていきたい」と意欲を見せる。

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