映画の上映時間はおおむね2時間が基本だ…
映画の上映時間はおおむね2時間が基本だろう。1960年に公開されたフランス・イタリア合作映画「太陽がいっぱい」は118分。
貧しい青年が富豪の息子フィリップを殺して財産と婚約者を奪う。全ては計画通りに運び、ビーチでくつろぐ青年が店の従業員に声を掛けられてつぶやく「最高の気分さ。太陽がまぶしいだけさ」。
「太陽がいっぱいだ」とも訳される名セリフだが、同じ頃、陸に引き上げられた犯行現場のクルーザーには、海に捨てたはずのフィリップの死体が引っ掛かっていた。婚約者の悲鳴が響き渡る。
衝撃的な結末を堪能するには、豊かさに対する屈折した感情や完全犯罪に至る積み重ねを青年と共有する時間が必要だ。あらすじだけでは名作が泣く。
映画を10分ほどにまとめた「ファスト映画」を動画サイトで無断公開していた男女2人に東京地裁が5億円の損害賠償を命じた。
映画の「早送り視聴」は2019年ごろから広がり始めたらしいが、感動を自ら放棄したようなもの。情報に追われるデジタル社会にあっても2時間の映画を楽しめる余裕は持ちたい。(増)