世界が注目!吉野杉の家 宿泊体験記
世界が注目!吉野の杉の家 宿泊体験記
桜の名所、吉野山で有名な吉野町。奈良市内から電車を乗り継いで1時間半、車でも1時間以上かかるこの地に、世界中から訪れるコミュニティハウスがあるのを知っていますか。
吉野川のほとりにたたずむ、その名も「吉野杉の家」
世界最大手の民泊会社Airbnbと建築家の長谷川豪氏がコラボ、吉野町の協力により完成しました。
1階にスギ、2階はヒノキと、地元の製材所や職人さんが吉野材でつくりあげたこの家は、東京の展示会に出展したのちに今の場所へ移築され、昨年2月から宿泊受付が開始されました。
吉野町産業観光振興課木のまち推進室によりますと、これまでの宿泊者は494人。そのうち外国人が23ヵ国から224人と半分近くを占めています。(平成30年5月31日現在。ちなみに見学者は859人、同11ヵ国から30人)
宿泊は水~土曜日
1日2組、最大7人まで
木材事業者を中心としたグループ「Re:吉野と暮らす会」(以下、Re:吉野)のメンバー30人以上が、日替わりでホストをつとめています。
トイレ、シャワールームも木の香りが漂う
運よく空きがあり、泊まってみることに!
今春のある日、吉野杉の家に到着したのは18時をまわったころ。ドキドキしながら入ると、木の香りが漂う室内から、その夜のホストと同宿するゲストが出迎えてくれました。
ホストは吉野で製材業を営む坂本哲郎さん(34)と辻健太郎さん(27)
Re:吉野の若手ツートップです。
そして、一晩をともにするのが、ロンドンから単身初来日したインド人ジャーナリストのアティシュ・パテルさん(32)
彼は滞在2週間のうち、すでに東京で1週間を過ごして、この日に吉野入り。その後、奈良、京都、広島を訪れ、最後に大阪でプロ野球を観戦するのだそう。
あいさつもそこそこに、空腹な4人は、夕食を買うために辻さんの車でコンビニへ。朝食は希望者に500円で提供されていて、パテルさんも私も事前に予約済
家に戻り、弁当を食べながら、ここに宿泊した理由をパテルさんに聞いてみました。
「東京とは違う、木の香りとゆったりした時間を感じられるこの宿に泊まることが目的だった」と念願が叶い、うれしそう。
確かに、窓の外は真っ暗闇、テレビもなく照明もおさえられた静かなこの空間は、ネオン街とはほど遠い不思議な世界に感じられました。
縁側から望む吉野川。夜はせせらぎだけが聞こえる闇の世界に
すると、坂本さんと辻さんがここに泊まる外国人について、「建築関係や興味のある人が多い」と教えてくれました。「吉野材で自国にも建てたいと話していたスペインの建築家」や「建築雑誌で知り泊まりにきた中国人」、「長谷川さんがつくった建物を見たかった」など、この家の成り立ちが広く知られ、共感されていることをうかがい知ることができます。
樹齢400年材でつくられたテーブルがリビングの主役
では、坂本さんと辻さんにとって吉野杉の家とは?
「すぐに仕事につながるのが一番だけど」と本音ものぞかせますが、「吉野を知ってもらう発信地」だといいます。実際、ここで吉野材への思いを伝えたゲストが、翌日に彼らの製材所へ見学に来ることもあるそうです。「まずは興味をもってもらうこと。そこからどのようなつながりが生まれるのか、そういう可能性を秘めている」と2人は熱く語ってくれました。
Re:吉野には、同業のライバル関係にあるメンバーも多い。
しかし、過疎化や木材需要の減少などを抱える吉野地域の将来を考え、「次世代へつなげるために、恩恵を受けているもの同士、山へお返しをしなければならない」との思いは一致しています。宿泊による収益の一部が地域のために活用されるこの家は、まさに「チャンスを与えてくれる拠点としてモチベーションになっている」のです。
熱い夜はふけてゆく・・・
朝の日差しに起こされて
いいにおいにつられて1階へ降りると里田良子さんが笑顔で迎えてくれました。
生まれも育ちも吉野町という彼女は、宿泊した希望者に朝食をつくっています。はじめは「知らない人の口に合うか不安だった」そうですが、いまでは「おいしいと言われるのが生きがい」というおもてなし好き。
早朝サイクリングから戻ったパテルさんとともに朝食をいただきます。川のせせらぎや自然を感じながらの食事は、夜とはまた違い格別です。
食後のコーヒーを飲みながら、この家に対する地元住民の反応を里田さんに聞いてみました。
「できたばかりの時はよくわからない存在だったと思うけど、昨秋に台風が来た時なんかはみんなが心配してた。今では、この家の前を散歩で通る住民も積極的にあいさつしてくれるようになった」と、存在感が増してきているそうです。自身も「英語をもっと勉強して、世界中の人ともっとコミュニケーションをとりたい」と夢はふくらみます。
ゆっくりしたいのですが、チェックアウトの時間です。
奈良まで車で送ると約束していたパテルさんと、時間に余裕があったため、吉野山まで行くことに。朝の金峯山寺は人も少なく、じっくりと見学できました。そのまま奈良公園近くにある、次に彼が泊まるゲストハウスまで送迎。後日、「吉野杉の家での出会いは忘れられない。また泊まりたい」とSNSで感想を送ってくれました。
吉野杉の家で出会ったホストの坂本さん、辻さん、朝食をつくってくれた里田さん、みなさんから家への期待と吉野に対する愛情が感じられました。きっと、この家にかかわるすべての人も同じなんだと思います。
そして、パテルさんのように、この家のコンセプトに惹かれ、訪れるゲストも絶えないでしょう。
実際に宿泊して体験したことが伝えられ、それが吉野の将来へとつながる。
吉野杉の家は、その象徴として、これからも世界中からゲストを迎えます。
吉野町までのアクセス