関東大震災(1923年)時に、デマによ…
関東大震災(1923年)時に、デマにより朝鮮人が虐殺されたのはよく知られているが、朝鮮人と誤認された人たちが妊婦、幼児を含め9人も集団で殺されていたとは。
長い間、闇に葬られてきた事件にスポットを当てた映画「福田村事件」を観賞した。大震災の5日後、千葉県で、香川から訪れた薬の行商団15人が村人たちによって襲撃された。
讃岐弁を朝鮮語と間違われたのが発端。作品は人間の心の奥にある差別意識、暴走する群衆心理の恐ろしさを赤裸々に描いている。
行商団は被差別部落の出身であった。被差別からの解放を目指す「水平社宣言」が出されたのは事件の前年。行商団が同宣言を唱和するシーンに心をゆさぶられた。
大正デモクラシーと軍国主義の台頭、閉鎖的な村の人間模様まで、この時代の空気が伝わってくる。人権を訴えるだけでなく、映画ならではの面白さにも欠けていない作品だ。
「善人が善人を殺す。人類の歴史はこの過ちの繰り返しだ」と森達也監督。「単なる過去の事件ではない。今を生きる私たちの物語」という問いかけは深い。(栄)