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作り続けた先にであえた、作品で伝えたいこと。「七木(ななもく)」今池七重

 

 

木の素朴さ、柔らかな質感、角がないフォルム。

 

 

「削る音が、一定のリズムで心地いい」と話すのは木工作家の今池七重(いまいけななえ)さん。

 

 

和室で使える正座用座イス「座きのこ」をはじめとして、家具や小物などをつくり、木とともに暮らす空間づくりを提案している。

 

 

 

 

今池さんは2013年に奈良へ移住。現在は大和郡山市に工房「七木-nanamoku-(ななもく)」を開き、制作に励んでいる。

工房は女性ひとりが使っていると思えないほどとても広く、木材や機材がいたるところに置いてある。道具も整然と並べられている。

 

 

 

 

 

小柄でおだやかな雰囲気、話を聞いているとチラつくたくましさ。
そんな今池さんから、木工作家として独立するまでの経緯や仕事の魅力を話してもらった。

 

 

動かし続けてつながったもの

 

今池さんは大学卒業後、岐阜県 飛騨高山の家具メーカーに就職。製造担当として制作の基礎を学んだのち、宮崎県に拠点を移し弟子入り。3年間の修行を経て、奈良へ移住した。最初は不安でいっぱいだったという。

 

” もともと奈良に来たのは友だちに勧められたのがきっかけで、この場所なら自分のペースに合っているなと思い移住を決めました。実際に来てみると静かで、制作環境はとても良かったのですが、知り合いのいない状態でひとりで来たということもあり、最初は不安でした。そもそも私がつくる木工作品って、ずっと残り続けるもの。陶器のように割れたり欠けたりしない、何代にもわたって長く使えるものだと思うんです。そういうものをプロとしてつくり出す責任感と、先行きが見えない不安とで落しつぶされそうになることもしばしばありました。”

 

 

うまくやっていけるのだろうかー
そんなことを毎日悶々と考えながらも、手を動かし続けていけば何かが動く。小さな光を探るように今池さんは制作に励んだ。

 

”つくったものをお客さんに納品したら、「イメージと違う。こんなのだめだ」と返されることもありましたね。それは椅子だったのですが、とてもショックで…。自分の技術がお客さんへ届かなかったことへの悔しさと悲しさ、今でも忘れないです。返されてしまったその椅子は、捨てずに家に置いています。
うまくいかないことが多くて、くよくよ悩みながらも不安を掻き消すかのように手を動かし続け、色々なイベントにも出展しました。”

 

 

”ある日、富山県のクラフトフェアに「花器」を出展したことがあったのですが、そこで賞をいただいたんです。30代前半の若手作家にもらえる新人賞のようなもので、とてもうれしかったですね。そしてそれをきっかけに、東京のイベントへ招待してもらったりと外へ出る機会が広がりました。作家さんやギャラリーの人ともつながり、グループ展などを少しづつやらせてもらえるようになりました。”

 

 

 

絵はがきに描かれた宝箱

 

受賞がきっかけで、一気に視界が広がりはじめた今池さん。自信もつき始め、お客さんと接する機会も増えてきた。そんな中、ある老夫婦とのやり取りが忘れられないという。

 

”小さな「宝箱」をつくったことがありました。それはある老夫婦が買ってくださったのですが、それ以来、私宛に絵はがきを送ってくれるんです。絵が上手な方で、宝箱の絵がきれいに描かれているのですが、そこにはこんな言葉が添えられていました。

 

『この宝箱は、我が家の正倉院です』

 

老夫婦はその宝箱に2人にとっての思い出の品、切符や写真を詰めていて、何年かしたら見返したいと話していたんです。
正倉院…これを見たときは溢れ出てくるものがありましたね。”

 

ものが役割を超えて思い出と重なっていく。
使い手にとっての大切な瞬間に今池さんは日々立ち会っているのかもしれない。

 

”作品づくりをしていて思うことはこの老夫婦のように大切に長く使ってもらえることが一番うれしいです。時々、お客さんが使い込んだものを見せてもらうのですが、その人の個性が味わい深くしみ込んでいるなぁと感慨深くなります。
また、木は長く使う中で壊れてしまっても、削ったりくっつけたりすれば再生してまた使えるんです。この前、近所の高校生が「勉強机の脚が壊れたので直してほしい」と依頼をしにきたことがありました。修理が終わって渡すときにその子は自分のお小遣いでお金を払ってくれたんです。うれしさと、背筋が伸びる気持ちでした。”

 

 

 

新しいものはすぐに手に入る世の中で、修理してでも長く使いたいと思えるもの。そんな「もの」をつくり出す今池さんや、向き合うお客さんの姿勢は、日本人が長く大切にしてきた価値観なのかもしれない。

 

”私の作品は今まで、お客さんの要望から生まれたものが多かったのですが、これからは自分から提案していきたいなと考えています。そう思えるようになったのは15年近くやってきて、だんだん制作のペースが掴めてきたということと、気持ちにゆとりができたことが大きいですね。
今住んでいる場所も自然にあふれたのどかな環境で、野草がたくさん生えていたり窓の外を見ると竹林が生い茂っているんです。日々見て癒されている自然物をモチーフに、生活に取り入れやすいもの、心に届くものをつくっていきたいなと思います。”

 

 

 

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タモの木でできた、手の平サイズより少し大きめサイズのトレー。
表面のでこぼこしたデザインが特徴で、タモならではのあたたかみを感じるトレーです。コップやお菓子をおいたり、小物を置いたりとインテリアとしてもお使いいただけます。

 

 

 

 

 

 

[取材協力]七木-nanamoku-

ライター・撮影松下恭子

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