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子どもたちの研究成果でPR 伝統の「奈良墨」づくりに新しい視点

 奈良の伝統産業として知られる「奈良墨」。この伝統を支える墨製造の「錦光園(きんこうえん)」(奈良市三条町)では、市内の小学生らとワークショップを行うなど「墨文化」を守る取り組みを進めている。

 

「奈良墨×東とみプロジェクト」の冊子。左は昨年度、右は今年度の成果=奈良市三条町の錦光園にて

 

奈良墨の文化 未来へつなぐ取り組み

 同工房の墨匠(ぼくしょう)、長野睦(あつし)さん(46)は100年以上続く墨職人の家系の七代目。近年は墨づくりと並行して「墨を伝える」ことにも注力。修学旅行や社会見学で奈良を訪れた児童・生徒に墨に触れる機会を提供するほか、出張授業で全国各地を回ることも。こうした活動は実費の材料費以外は無償で請け負っている。

 

三条通りの賑わいからすぐ、閑静な通りにある工房=同

 

さまざまな奈良墨が並び、墨の心地よい香りが漂う=同

 

 市立東登美ヶ丘小学校の4年生児童は昨年度から同工房の協力を得て、奈良の伝統工芸の将来について考える「奈良墨×東とみプロジェクト」に取り組んでいる。

 

 今年度の児童はSNSでの奈良墨の魅力拡散をテーマに活動。粘土状の生墨で自分だけの「にぎり墨」をつくり、体育館の床一面を使ったワークショップでは奈良墨を全身で体験。その中での気づきを元に長野さんや奈良教育大学仮名書道研究室の協力を得ながら学びを深め、班ごとにチラシを作り上げた。

 

 内容は奈良墨の製造や現状のほか、書道具や御朱印の魅力まで多様で、イラストや写真、グラフも使い、目に留まるための工夫を班ごとに凝らした。チラシは18ページのカラー冊子や動画にもまとめ、実際に長野さんが奈良墨の紹介にSNS等で活用。拡散を呼び掛けている。同プロジェクトは今後も継続するという。

 

班ごとに練り上げた力作が揃う、奈良墨をPRするチラシ(部分)=市立東登美ヶ丘小作成・錦光園提供

 

「ぐちゃぐちゃワークショップ」の様子=市立東登美ヶ丘小にて・錦光園提供

 

学びをまとめる児童ら=同

 

昨年度の4年生の取り組みで発案・商品化された、ラメ入りの奈良墨「銀河」。磨った際のきらめきを宇宙に見立てたというアイデアに長野さんも驚いたという=奈良市三条町の錦光園にて

 

 

原体験のひとつとして、墨に触れてほしい

 墨の製造シーズンは1年のうち11月末から4月末頃までの約半年間で、まもなく今期の墨製造が終わる。春からはワークショップの予定が続々と決まっており、次の製造シーズンまで全国を飛び回る日々が始まる。

 

「こちらが学ぶことも多い」と冊子を手に語る長野さん=同

 

 日本の墨づくりは、神社仏閣が多く写経などで墨を多用する奈良を中心に発展したが、墨製造業者は現在、全国で約10軒。うち市内に残るのは8軒のみとなった。長野さんは「もはや自工房の存続だけの問題ではない。子どもたちに伝えることで将来の日本の墨文化を守りたい」と話している。

 

 問い合わせや、オンライン販売は同工房公式サイト、https://kinkoen.jp/。各種SNSで。

 

 

 

 ◆広がる、新たな「墨の楽しみ方」

 

伎楽面をかたどった香り墨「Asuka」。香るインテリアやギフトにも喜ばれる=同

 

 墨が時代とともに筆記の必需品ではなくなる一方、従来とは異なる「墨」へのアプローチも増えている。書くためだけではなく、「墨のもつ『見た目の美しさ』や『落ち着く香り』のほか、『無心で磨(す)る行為そのもの』で得られる癒やし、心身が整うような感覚に魅了される人も」と長野さん。墨色の美しさに魅せられ、アートに用いる画材としての需要もあるという。

 

 

 

 

 ◆奈良らしい「鹿」の墨も

 

大和鹿皮膠墨「天鹿(てんろく)」。左が原料の膠=同工房提供

 

 希少な国産の膠(にかわ)の中でも、奈良県五條市の鹿由来の膠を原料にした「大和鹿皮膠墨(やまとしかがわにかわすみ)」を使用。「これまでは処分されてきた駆除鹿の皮を、墨の原料として欠かせない膠として再利用することで良いサイクルをつくれないか」と考えていた地元の日本画家から直々に依頼を受け生まれた商品。

 

 

錦光園(きんこうえん)

 

 

昔ながらの製法と伝統を守り、良質な「奈良墨」を一つ一つ手づくり。

江戸時代より代々墨職人の家系であり、明治初頭に奈良でも由緒ある墨工房「古梅園」の職長を務めていた長野亀吉が独立・創業したのが「錦光園」。現在は墨の伝統と文化を守るために工房やオンラインでの墨づくり体験や各地でのワークショップにも力を入れて活動している。

 

 

工房情報

<店舗名>

錦光園(きんこうえん)

<住所>

奈良市三条町547

<駐車場有無>

なし

<電話>

0742-22-3319

<公式SNS>

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