空飛ぶ特大「鹿せんべい」に選手もシカも夢中 - 大会人気高まるも、実は存続の危機
「鹿せんべいとばし大会」(奈良若草山観光振興会主催・若草山焼き行事実行委員会協力)が1月27日、奈良市の若草山で、同日夜の若草山焼き関連イベントとして行われ、家族連れや海外からの観光客らでにぎわった。
鹿せんべいとばし大会を楽しむ参加者ら=1月27日、奈良市の若草山
奈良ならでは ユニークな競技に行列
同大会は、競技用に作られた直径20センチの特製鹿せんべいを投げその飛距離を競う。通常の「鹿せんべい(直径9センチ)」とサイズは異なるが、材料や製法は全く同じで、鹿にも安心な"おやつ"。大会用に約600枚の鹿せんべいを用意したが、午後12時の開場とともに山麓ゲートの外にあふれるほどの行列が続き、わずか1時間で受付を締め切る人気となった。
大会ルールを熟読する参加者ら=同
鹿せんべいを投げる様子=同
行列が続く会場=同
鹿せんべいは割れを防ぐため、受付時ではなく競技直前に係より手渡される。参加者や応援の人たちは山焼き前の若草山で次々と飛ぶ特大鹿せんべいに歓声を上げて競技を楽しんだ。競技待ちで列を作る参加者らは、先に空を舞う鹿せんべいを見上げながら、時にはファールで観客側に飛び込んでくるせんべいをよけつつ和やかに待ち時間を過ごしていた。
投げる直前に手渡されるせんべい。割れやヒビがないかスタッフが入念に確認する=同
大会専用の特大の特製鹿せんべい(左・直径20センチ)と、通常サイズの鹿せんべい=同
同大会は年齢や男女、体格の区別なく「投げるだけ」で競技できるとあって人気を博し、過去には春やGWにも不定期で開催。「競技中に投げたせんべいをシカが食べてしまった場合にはシカの右前足までを飛距離として測定」「計測済みの鹿せんべいはシカのおやつになるため、拾わずそのままにしておく」などシカのいる奈良ならではの競技ルールが定められている。
飛距離計測後のせんべいにはシカたちが集まり我先にとほおばる場面も見られた。
特大の鹿せんべいを食べる、奈良公園のシカ=同
全国から訪れる参加者
山焼き記念での同大会は、天候不良や山焼き中止時やコロナ禍での自粛時を除きほぼ毎年実施され、参加人数は300人ほどにのぼる。20メートル、30メートルを越えた記録が出ると鹿マスコットが記念品として贈られ、優勝者はシカの角(つの)の盾と表彰状が贈られる。優勝や連覇を目指す県外からの参加者も多い。
母親から競技のことを聞き、平群町から訪れ初参加した岩屋丈一郎くん(10)は、32.30メートルの好成績をマークし笑顔をはじけさせた。「いつも紙飛行機を飛ばしているから投げるのは得意。うまくいってうれしい。あ、投げたせんべいをシカが食べている!」とシカの様子も観察しながら、元気いっぱいに競技を振り返った。
30メートルを超えこの時点で暫定一位、笑顔の岩屋くん=同
昨年度の優勝者でこれまで計5回の優勝経験がある、大阪市西区の折敷修嗣さん(49)は、「毎年家族と訪れ楽しませてもらっている。今年は距離が伸びなかったがまたぜひ参加したい」とすがすがしい表情を見せた。
投げたせんべいの行方を見守る、前回優勝の折敷さん=同
今回は大阪府泉大津市の乾正一さん(56)が最長飛距離40.25メートルを飛ばして、10年ぶり4回目の優勝。「(自身2投目の鹿せんべいが)うまく風に乗りファールライン内側にとどまってくれた。競技仲間にはここ数年シルバーコレクターと呼ばれていたので本当にうれしい」と、鹿の角のトロフィーを手に声を弾ませた。
優勝した乾さん(中央)。右は事務局の荒木さん=同
投げるコツを問うと「投げる際に割らないこと。鹿せんべいに無理な力がかからないよう、支える指の位置に気を付けている」。競技外でも観光で奈良公園に訪れるという乾さん。鹿たちに普通の鹿せんべいをあげる場面も多い。乾さんは「“おじぎ”はかわいいが、じらさないよう心掛けている」と笑顔で話した。
大人気なのに…30年の時を経て今、存続の危機
同大会は1993年から続き、年齢や男女の区別なく参加できる人気イベントとして定着。県外から通う熱心な参加者も多い。一方で今後の大会存続は、主催や協力組織の高齢化や人員不足が課題となり厳しさもあるという。
事務局の荒木龍一さんは30年超の歴史がある同大会に15年ほど前からボランティアで関わり、奈良のキャラクターを招致しての撮影会や、シカを模した黄色いサンバイザーなども発案し大会に取り入れてきた。現在は荒木さんを中心に、奈良市や近郊から集まった25名ほどのボランティアスタッフが当日の大会運営を切り盛りするが、数百の参加者に滞りなく安全に競技を楽しんでもらうためにはぎりぎりの人員。また、山麓を行き来しての案内誘導や、足元の不安定な斜面での鹿せんべいの飛距離計測、鹿せんべいの行方を追いファールの判定を行うなど、体力が求められる場面も多い。
参加者が詰めかける受付。記念品配布や記録の確認などもあり多くの仕事をこなす=同
今回も開催が危ぶまれる中、奈良市の「観光特派員」の高校生や、普段は「鹿サポーターズクラブ」や「なら観光ボランティアガイドの会・朱雀(すざく)」で活動するメンバーが駆け付け開催にこぎつけた。地元山麓の観光案内所・三笠観光会館(奈良市雑司町)の清水さんも「どうにか存続を」と高齢の父に代わり実行委員長代理を務め、開催準備や備品管理で事務局をささえてきたが、荒木さん同様限られたマンパワーでできることの限界を感じている。
荒木さんは「投げるのは一瞬。でも順番待ちの間にも参加者同士一体感が生まれて競技後にも笑顔で楽しめる、そんなあたたかなイベントになるよう皆で創意工夫を重ねてきたが、毎回これが最後という思いで開催している状況。地元の若い世代の力も借りて文化を繋いでいければ」と話している。
鹿のためを思うなら…鹿せんべい以外はNG
鹿せんべいを挟んでの交流は、奈良公園の鹿との上手なふれあいの一つ。一方で、野菜くずや穀物などのえさやりの違反行為によって、公園内の生態系や鹿の健康、安全が脅かされるケースもある。禁止行為をまとめてみた。
【NG】野菜くずなどの作物や穀物を与える
→ 田畑を荒らすトラブルの原因に。不法投棄(餌やり)を見かけたら県奈良公園事務所など関係機関に通報を。
【NG】スナック菓子やパンなど人間の食べ物を与える
→ 添加物や砂糖などが健康悪化(胃腸障害や虫歯)を招く。菓子を袋ごとばら撒かれる被害も。人間の食べ物に慣れてしまうと、人を攻撃して奪うようになり良好な関係が崩れることに。
(※天然記念物「奈良のシカ」保護計画 より)