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奈良の鹿ニュース

東京から、たっぷりの奈良愛を込めて―奈良がテーマの小冊子を手がける「奈良都民」

 「ZINE(ジン)」と呼ばれる小冊子を通じて好きなものを表現する「奈良ZINEマルシェ」(奈良公園バスターミナルイベント実行委員会・ZINE FARM TOKYO主催)が21日、奈良市登大路町の奈良公園バスターミナル東棟1階で開かれた。

 

 ZINEとは、個人が出版社を通さずに自由な発想で作る同人誌のような小冊子を指す言葉で、ニッチな題材やデザインなど作家の個性や世界観が共感を呼びファンを増やしていくメディアとしてこの数年で急成長、注目されている。今回は「バスタdeマルシェ」として毎月第三日曜に各種イベントを行う同委員会と、魅力的なカルチャーであるZINEを古都奈良にも紹介したいと考えていた同団体の思いが一致し、開催に至った。当日は小雨にもかかわらず開場から来場者が途切れず、盛況となった。

 

「奈良ZINEマルシェ」に出展する、こにしさん=21日・奈良市登大路町の奈良公園バスターミナル

 

 

ガイドブックとは一味違う 奈良へのゆるい「入り口」

 出展者の一人、グラフィックデザイナーのこにしけいこさん(45)は本業とは別に「奈良都民」のペンネームで個人の活動を行う。これまで奈良をテーマにしたZINEや地図、紙雑貨を手がけてきた。

 

 こにしさんのZINEは、奈良らしさをもつオリジナルキャラクター「ちいさいひとたち」のイラストが主人公。結い上げた髪(みずら)がウサギの耳になった男女の童子と、つるんとした丸い姿にその時々で奈良っぽい飾りを身につけた姿の男の子の3人組。奈良の風景や名物、風物詩の中へひっそりと、時には大胆に登場し、笑ってしまうような勘違いを楽しむ様子に短い考察文を添えるなどして、県内各地の魅力をユニークに表現しているのが特徴だ。つぶらな瞳でかわいらしく奈良を動き回る姿を追っていると、ガイドブックとは違う楽しみを発見できる。

 

 

オリジナルキャラクター「ちいさいひとたち」に囲まれる「奈良都民」のこにしさん(中央)=奈良都民提供

 

 今回は奈良の風景の中にユニークな小ネタも散りばめた「奈良都民風土記」、奈良名物に扮したキャラクターが古刹や名所を自由きままに解釈する「奈良ごっこ」、白い鹿さんと奈良の空を巡り東大寺の大仏様を訪ねる「ならのそらさんぽ」など7種のZINEを販売。手のひらほどのA6判でコレクションしたくなるサイズ感と表紙のやさしいイラストが目をひく。

 

 

手作りの温かさ こつこつ歩いて撮りためた写真とイラストで

ブースに並ぶ「奈良都民」こと、こにしさんのZINE=21日・同

 

 こにしさんのZINEへのこだわりは作りの部分にも。ガリ版や版画のような手法が味わいのあるリソグラフ印刷を主に取り入れ、製本は一つひとつが手仕事。懐かしいアナログ感が加わり、奈良をテーマにした冊子の魅力をより引き立てている。

 

 奈良の四季折々や行事を表現したポストカードやカレンダー、奈良の「願い申(身代り申)」イラスト入りマスキングテープなどのオリジナル雑貨も扱い、奈良愛にあふれる根っからの奈良県民、と思いきや、東京生まれ東京育ちで、仕事も住まいも東京というこにしさん。これまでもZINEイベントには2021年から7回(すべて東京都内にて)出展してきた。こにしさんはちいさいひとたちについて「落書きから生まれた、興味の赴くままに古都を歩く私の分身で」と笑う。

 

 この日も旅行などで偶然奈良を訪れた人や、親子連れ、おしゃれ感度の高い若者らなど、多くの人が奈良都民のブースに足を止め、奈良愛あふれるトークで来場者との交流を深めた。

 

 

奈良での個人出展は、今回が初めて

 奈良でのグループ展は経験があったものの、単独ブースでのイベント出展は奈良では初。こにしさんは「特に地元の方の反応が不安だったが、奈良の入門編のようなゆるさを面白がってもらえてうれしい」とほほ笑む。

 

 大阪市から訪れた女性(28)はこにしさんのZINEでコーヒーの個包装のデザイン集「奈良のコーヒー屋さん」を手に取り「事前にSNSでみてイラストに惹かれ購入を決めていた。自身も靴下をテーマにした冊子を作っているが、奈良の細かい部分に特化したZINEも楽しい」と笑顔で語った。久しぶりの奈良の空気感や来場者とのやり取り、制作を通じた知人の来場にこにしさんは「ほっとした。やっぱり奈良は大好きな場所」と表情を緩めた。

 

 

雑談の中で生まれ、名乗り始めた「奈良都民」

 本業でも20年紙媒体を中心としたグラフィックデザインに携わるが、「それ以外の制作活動は100%奈良都民」。奈良のマップやキャラクターのハガキなど奈良にまつわる制作物はすべてが個人の作家活動の成果だ。

 

 2018年から使い始めた作家名「奈良都民」は、仲間内での雑談の中から生まれたフレーズで、「東京に住む奈良好き」な自身をあらわす作家名にちょうど良いと名乗り始めた。「私以外にも奈良都民はたくさんいるはず。都内に限らず奈良県外に住む奈良好きの総称があったらいいなと思いつつ、まだいいアイデアはなくて」とつぶやく。

 

東京都内では、しばしば実店舗での雑貨取り扱いも=奈良都民提供

 

 

接点は「修学旅行」だけ。奈良に特別な感情はなかったはずが

 「人生の中で奈良への印象を持つ機会すらなかった」というこにしさんの運命を変えたのは、12年に参加した大和茶「と、わ」の容器デザインの全国コンペ。投票やプレゼンテーションを経て見事最優秀作品に選出され商品化されたことで、奈良との縁が生まれた。東京に拠点をもつものの、次第にコンペに関わった人々との対面での繋がりや、実際に商品を扱う奈良のカフェなどへの思いが募り、翌13年には思い切って奈良通いをスタート。

 

こにしさんのデザインが採用された大和茶「と、わ」=同提供

 

 

デザインを通して奈良にたどり着いた、私が掴んだ場所という実感

 初期はいわゆる「きたまち(近鉄奈良駅の北側)」「ならまち(同南側)」近辺の神社や古刹(こさつ)、町の店までぐるぐると散策。町なかに古と今が互いを縫うようにして存在することに惹かれ、ついには奈良への愛着を「奈良駅界隈主観マップ」(15年6月)として自主制作。奈良で知り合った仲間に配布したところ「おもしろい」と盛り上がった。

 

 こにしさん自身も奈良愛を形にすることで、より愛が深まることに。徐々に「東京から来る奈良の地図の人」として認知され始め、市から町歩きマップの依頼を受ける(16年2月)など、奈良関連の制作の機会を広げていく。現在までに「奈良都民」として手掛けたオリジナルグッズは約20点、ZINE(小冊子)は約10点、依頼物は15点ほどにのぼる。

 

「奈良駅界隈主観マップ」。地図関連は年月を経て店舗の入れ替わりなどもあるため「更新しようかな」とこにしさん。=同提供

 

 近鉄奈良駅周辺でモーニングメニューを食べられる店を紹介した地図「奈良の早起き朝ごはんMAP」(17年1月)、夜バージョンの「奈良の夜ふかし晩ごはんMAP」(20年2月)、はいずれも有志5,6人での自主制作で、数千部を手折りで仕上げた。

 

 地図制作で出会った一人はのちに「花ちゃんちのおうちごはん」(23年開店・奈良市中登美ケ丘団地内)の店主として、こにしさんにチラシや店舗カードのデザインを任せてくれた。「よそ者の私だからこそできることって何だろう」と意識しつつ、「自身の人となりや作品を知った上で依頼してもらえることが素直にうれしい」とこにしさんは話す。

 

ブレないのは「義務感で作らない」こと

 手がける作品の数やジャンルが増えても、制作活動の根底にあるものは変わらない。「義務ではなく、愛着と作りたい欲求で作る」ことを念頭におかないと、よそよそしい物が出来上がってしまう。「奈良ひとまち大学」からの声掛けで講義をした際にも、同マップで参加者同士話に花が咲きいい時間が流れ、思い入れが思い入れを呼ぶのだということを改めて実感した。

 

奈良愛を押し付けることはしたくない

 奈良のイラストマップの作品や奈良を題材とした冊子を目に留める人はさまざま。奈良の人が手にすると、とたんに地元トークに発展することが多い。それでも土地柄への思いは人それぞれであること、町に根ざし暮らす人がいるおかげでよそから訪れることができることは常に頭にある。奈良の人や県外の人に、自身の持つ奈良愛を押し付けることはしない。

 

 他県での出展時、ふいに奈良のブースを見つけた人が驚いて立ち止まってくれたり、嬉しそうにしてくれたりする様子を見るのが幸せで、「自分の作品が誰かの奈良への愛着を呼び起こす、そんなささやかなきっかけになれたら」と話す。

 

「自身の作品の説明より、いつの間にか奈良そのものの話になることが多くて」とZINEをめくるこにしさん=21日・同

 

 

歩きたい気持ちは抑えつつ、今年はもっと奈良へ

 最初の頃は2、3カ月に一度は奈良を訪れ、多いときは年間60日ほど奈良に滞在した年も。北和に通い詰め、さぁ中南和から先にも足を延ばそうかというタイミングでのコロナ禍だった。奈良に通えない間は、それまで撮りためた写真や見聞きしたものをもとに奈良に思いを馳せながら「奈良都民」の制作に打ち込む時間となった。今年は藤原宮跡や室生寺、談山神社など、再び中南和からじっくりと歩いてまわろうと計画中だ。

 

 「過去、吉野から桜井を経由して長谷まで、気がついたら一日で3万歩ほど歩いていたので、今後は夢中になり過ぎずほどほどを心がけようと。奈良の有名な寺社はみな広大なので『一日一寺』の気持ちで、日程も行程も余裕をもって巡りたい。なんだかご機嫌で奈良をうろちょろしている東京もんがいる、ということだけでもお見知りおきを」と笑みを見せた。

 

「ハリブックス」のフライヤー。期間限定で、金土日のみの開催

 

 こにしさんのZINEは、ギャラリー太陽とハリネズミ(大阪市寺田町)で2月2日から3月24日まで開催される「ハリブックス」でも展示・販売される(在廊なし)。3月23日には吉祥寺パルコ(東京都武蔵野市)で行われる「吉祥寺ZINEフェスティバル」に出展する。

 

 問い合わせや奈良都民の情報、オンライン販売(奈良都民雑貨店)は公式サイト、https://naratomin.com/

 

「奈良都民(ならとみん)」

「愛着を形に」をテーマに、奈良通いで印象に残った風景や町のイラストマップを、オリジナルキャラクター「ちいさいひとたち」を絡めた絵柄にして商品展開。奈良をテーマに手製本したZINE(小冊子)のほか、トートバックや手ぬぐいなどの布アイテム、ハガキやメモ、カレンダーなどの紙アイテムなどを扱う。

 

<instagram> 「奈良都民」アカウント https://www.instagram.com/naratomin/

<WEBサイト>「奈良都民」公式サイト https://naratomin.com/

<オンラインショップ>「奈良都民雑貨店」 https://naratomin.thebase.in/

 

 

読者特典

 

ハガキ3枚セットはこにしさんがセレクト。何が届くかはお楽しみ(写真はイメージ)

 

「奈良都民のハガキセット」を抽選で3人にプレゼント。応募は2通り。

 

【インスタグラムで応募】

①奈良新聞インスタグラム「奈良新聞の鹿好きさん」をフォローの上、

②「奈良都民のハガキセット希望」のDM送付で応募完了。2月2日締め切り。

抽選ののち、当選者のみにDMで連絡▽コメントでの応募は不可・非公開アカウントは抽選対象外

 

【はがきで応募】

はがきに郵便番号、住所、氏名と「奈良都民のハガキセット希望」を書いて〒630-8686奈良新聞社デジタル編集部「GОGОエンジョイ・プレゼント」係へ。2月2日消印有効▽商品の発送をもって当選の連絡とする

 

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