特集奈良の鹿ニュース

奈良の鹿ニュース

奈良の伝統産業 エコで品質に優れた「鹿革」に注目

 全国的に高いシェアを誇る奈良県の毛皮革産業。その品質の良さをPRし県の地場産業としての知名度アップをはかるため、この秋、県内外で展示会やイベントが開催される。秋の深まりとともに、ファッションや小物など毛皮革製品、特に鹿革の魅力にふれてみてはいかが。

 

身近にもたくさん 鹿革は優れた特徴を持つ天然素材

  奈良県の毛皮革産業は宇陀市菟田野(うたの)を中心に発展。毛皮の出荷高は国内シェアの45%、特に鹿革シェアは95%を誇る。鹿革は牛革など他の天然皮革と比べ▽非常に軽く柔らかい▽きめ細やかな質感▽通気性がよく吸水性に優れる―などの特徴を持つ。

 

鹿皮革を使用した革小物(コースター、キーホルダー、コインケース)=奈良産業提供

 

鹿皮革を使用した財布=同

 

 吟(ぎん)面を除去してから表面を研磨ししっとりと柔らかく仕上げた「白革」は、弓道に使う「弽(ゆがけ)」や剣道の武道用具での用途のほか、さらに二次加工を施した「セーム革」としてデリケートな宝飾品やカメラ・眼鏡のレンズ、スマートフォン、楽器などの拭き物用クロスとして愛用される。手入れするものに傷を残さないきめ細やかさとホコリや油分等の汚れが非常に綺麗に除去でき、現在はスキンケアなど美容用途としても人気がある。

 

 また、自然のシボとおだやかな光沢に仕上げた「吟付き革」や、表面を短く起毛加工した「ヌバック」は衣服やかばん、財布などのアパレル製品にも多く使用され、鹿革製の手袋はフィット感が抜群だ。

 

イベントに出展して鹿革製品をPRする南浦さん。中垣さんの鹿革袴(左)も=同

 

 昭和30年代の創業時から鹿革の製造販売を手掛ける「奈良産業」(宇陀市菟田野古市場、南浦良章代表)では、地場産業の普及のため、全国のファッション展示会のほか、業界団体が企画した県内外の展示会やイベントにも出展。同社の南浦湧弥工場長(36)は「シェアは高いものの、菟田野の名は革業界内でも皮革製造に専門的に関わる人が知る程度。全国にもPRが必要だが、まずは県内の人に広く鹿革の良さを知ってもらいたい。各種イベントへの参加やSNSでの発信にも近年力を入れてきた」と話す。

 

 

廃棄は最小限に エコレザーとして有効活用

 現在、全国各地で増えすぎた野生の鹿による田畑や森林の害獣被害が深刻となっており、年間数十万頭の鹿が有害鳥獣としてやむを得ず駆除されている。そのため、革を作るためだけに動物が飼育されたり狩猟されたりすることは減少しており、同社が取り扱う鹿原皮はこのようにやむなく駆除された個体のもの。

 

 これまではそのまま山に放置、あるいは焼却処分で大量廃棄されてきた国内のニホンジカやエゾジカを処理施設や猟師から仕入れ、職人が丁寧に加工することで「革」素材としてリサイクルしている。鹿原皮の調達には、宇陀市農林課の地域おこし協力隊害獣対策チームによる駆除個体も含まれる。

 

工場での作業風景。原皮の床面を整え、最終製品の仕様に応じて吟面を除去する工程=同

 

加工後、染色を施した鹿皮革=同

 

 近年SDGsの取り組みや食肉としてのジビエへの関心が広まってきた影響も手伝い、鹿革の委託加工の依頼も増加。個人の猟師やジビエ食肉加工場などから直接原皮を送ってもらい、要望に応じて各種加工している。中には今までにない用途での相談もあり、密にやり取りしながら商品開発に向き合っている。

 

 

鹿革産業について知り、活用してほしい

 子どもの頃から皮革は身近であった南浦さんが、製造に関して本格的に勉強を始めたのは3年程前から。大学卒業後一度家業に入るが事業継承にあたり一念発起。10年ほど他業種で経験を積み見聞を広げ、同社に復帰後は現場作業にも携わり皮革製造について学び知識をつけてきた。その分、新たな相談や提案にも柔軟だ。

 

 2022年には大原和服専門学園の大原学園長からの熱心な相談で、奈良県十津川村の猟師、中垣十秋さんが企画した鹿革袴製作のための加工(鞣し)は、同社が担当。以前より、中垣さんの活動に注目していた同社が引き受け、生地の仕上げ方や色の打ち合わせを繰り返した。風合いや色合い、厚み調整にも神経を使い、鞣し・染色の加工を経て生地が完成した後は、同学園による縫製で袴が完成。

 害獣として駆除された鹿の個体は、通常なら大多数が廃棄される。「成人式当日は実際に袴を着る中垣さんを見ることができた。猟師として日々鹿と真摯に向き合う若者の挑戦・創造の場に関わることができ感謝している」と南浦さんは話す。

 

 

関連記事>> オンリーワン 鹿皮の着物 奈良の専門学校生ら製作 十津川の猟師中垣さん、成人式で着用へ(2022年12月28日掲載)

 

 

 工場見学の受け入れも積極的に行う。宇陀市内外の小学生や東京の中学生による社会科見学、最近では新製品の開発やマーケティングを学ぶ大学ゼミ生による見学も。企業からの見学も全国から引き合いがあり、「奈良=鹿皮革」を浸透させる活動を続けている。

 

工場見学の様子=同

 

 現在は多くの取引先と協力し、原皮の収集から出荷まで一連のスムーズなシステムづくりを行うことで廃棄を減らし、鹿革の特性を生かした新たな用途への開発プロジェクトも進行中だ。

 

 南浦さんは「鹿革は1300年以上前から使用されてきた伝統的な革。有害駆除であっても常に『鹿の命を頂いている』という気持ちを忘れず一同従事している。奈良の財産でより良いものを生み出すために、分野問わず常にアンテナをはり何か新しいことができないか考えている。鹿革の活用なら規模の大小を問わず、気軽に相談してほしい」と話している。

 

 「奈良県の鹿革」普及のため、全国のファッション展示会のほか、同社が所属する奈良県毛皮革協同組合連合会や、宇陀市菟田野毛皮革産業振興協議会で企画した県内外の展示会やイベントにも出展しており、ほとんどの場で一般の消費者も入場・購入ができる。セーム革は、県庁前やショッピングモールでのイベント催事や、奈良市内の土産店「なら和み館」「春日野」「古都屋」などでも購入可能。

 

 出展の最新情報は同社インスタグラムWebサイトでも発信。問い合わせは、電話0745(84)4087。

 

 

年内の主な出展予定

 

①FaW TOKYO(ファッションワールド東京) 第9回生地・素材EXPO秋

 10月10〜12日、東京都江東区有明・東京ビッグサイト ※専門業者向けの商談展示会

  https://www.fashion-tokyo.jp/hub/ja-jp.html

 

②うだ産フェスタ2023

 10月28〜29日、宇陀市榛原萩原・市総合体育館

 

③第29回菟田野毛皮革ファッションフェア

 11月4〜5日、大阪府泉大津市・テクスピア大阪

 https://udashiutano-mouhikaku.jp/

 

④第42回毛皮革フェアinうたの

 11月25〜26日、宇陀市菟田野古市場・市菟田野産業振興センター

 https://www.city.uda.nara.jp/s-kikaku/mouhikaku2023.html

 

読者プレゼント

奈良絵柄の鹿セーム革クロス(奈良産業より商品提供)

 

奈良絵柄入りの「鹿セーム革」を抽選で10人に。

応募は2通り。

 

【インスタグラムで応募】

①奈良新聞インスタグラム「奈良新聞の鹿好きさん」 @np_shikazuki をフォローの上、

②「奈良産業の鹿セーム革希望」のDM送付で応募完了。

10月9日締め切り。抽選ののち、当選者のみにDMで連絡。

※コメントでの応募は不可・非公開アカウントは抽選対象外

 

【はがきで応募】

はがきに郵便番号、住所、氏名と「奈良産業の鹿セーム革希望」を書いて

〒630-8686奈良新聞社デジタル編集部「GOGOエンジョイ・プレゼント」係へ。

10月6日消印有効。 ※商品の発送をもって当選の連絡とする

 

企業情報

※記事公開時の情報です

<社名>

奈良産業(ならさんぎょう)

<住所>

本社:奈良県宇陀市菟田野古市場1399

工場:奈良県宇陀市菟田野古市場1596-10(毛皮革工業団地内)

<電話>

0745-84-4087

<公式SNS>

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  • Instagram

 

 

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