特集2024年春の高校野球奈良大会速報

奈良の鹿ニュース

人が 仕事が「つながる」新しい働き方提案 奈良市内のコミュニティ型コワーキングスペース3選

 今や働き方のひとつとして定番となりつつあるリモートワーク。

 

 そして、オフィスという「場所」に縛られることなく働ける業種・環境の人にとって便利な場所が、街なかのコワーキングスペース。近年、奈良市内でも複数の施設が誕生している。

 

 今回はコミュニティ型の特色が強い「bird bird」「JIRIN」「BONCHI」の3施設に注目。同業でありながら、互いのコンセプトや持ち味をリスペクトしあう間柄だ。普段から交流が深いというそれぞれに話を伺った。

 

※各施設の利用方法詳細はリンクを参照

 

コワークとは

 CO(共同)+working(働く)の造語。コピー機や電源、Wi-Fi環境など、一般的な事務所機能をもつオープンスペースで、各利用者は席を選びそれぞれの仕事を行う。多様な職種の人が隣り合うことで交流が生まれ、新しいビジネスに繋がることも。

 

 

銭湯のようにフラットで緩やかな集い方が、肩肘張らず心地よい社交場「bird bird」 (2023年3月開業/要会員登録)

 若草山を望む屋上ワークスペース、キッチンや屋外サウナ、金土の夜限定のバー「bird bird bar」も併設。メインとなる2階のワークスペースには、年単位でコツコツ集めたアンティークの家具が心地よく配置されている。

 

2階のワークスペース=奈良市紀寺町のbird bird

 

 何より、bird bird代表の藤岡俊平さん(40)の人柄が作りだす穏やかな雰囲気が、全体をまとめており、この人の存在があって完成する空間と感じさせてくれる。

 

 付近は住宅や学校が多く落ち着いた地域。アクセスが良いわけではないが、「わざわざ交通機関を乗り継いででもここに来る意味がある」という利用者の声が多い。仕事をする場という機能性だけではなく、良いものに囲まれさまざまな考えの人と交流することで、より豊かな日常が生まれる、という認識だ。

 

若草山を望む屋上のワークスペースではランチをとる人も。サウナもこの屋上にある=同

 

 これまで奈良の伝統的な町家や古民家の修復・設計を父の代から手掛けてきた。自身のプロジェクトとして、奈良の町家を一連貸しする宿泊施設「紀寺の家」設立や、JR京終駅のカフェ「ハテノミドリ」を中心としたまちづくり、三条通りを庭のように楽しむ「SUN DAYS PARK」などに取り組んできたのも「心地よい場所が、いい循環を生む」と考えているから。

 

 紀寺で生まれ育った藤岡さんだがボス感は良い意味で皆無。意識しているのは「銭湯の番頭さん」の立ち位置。コロナ禍でオンライン交流が普及し「いつでも繋がれる」状態を経て、藤岡さん自身、人と繋がり過ぎることの息苦しさや、逆に会わないことでの孤独を感じた経験もあるため、同施設の運営では利用者それぞれの距離感を大切にしている。

 

会員でなくても利用可能な、1階のbird bird bar。金土の夕方からのみオープンする=同

 

 「うちは銭湯のように、その場その時で偶然居合わせた人を歓迎し守るスタンス。縛りのない緩やかな繋がりの場として、居心地のよさを提供したい。何かアイデアを持つ人はサポートしたい」と話す。

 

 「最近の奈良はすごく良くなっていると感じる。クリエイターや拠点を移す人も増え、厚みや深みが増してきた。『人』は揃っているので、作用し合う場所が今後も増えていけば」と締めくくった。

 

「3施設で一緒に何かできないか、今模索中」と話す藤岡さん=同

 

▼JIRIN 井上さんから見た「bird bird」とは?

藤岡さんの人徳が施設の象徴。魅力的な人や事柄が吸い寄せられるような、繋がりを生む仕掛けづくりが絶妙だと思います。

 

▼BONCHI 中島さんから見た「bird bird」とは?

コミュニティづくりに特化したサービスはさすがだなと思います。感度の高い情報が集まる場所、という印象です。

 

 

地域という豊かな土壌づくりを大切に。小さな夢も具現化する学びの場「JIRIN」(2021年4月開業/ドロップイン利用も可)

 一昨年ならまちに誕生した鹿猿狐ビルヂングの3階に位置する、ビジネスのヒントが凝縮された場所。「スモールビジネスで奈良を元気にする!」をビジョンに掲げ、豊富なライブラリや高みを目指す講座で創造的な学びを提供する、創業支援の拠点だ。

 

猿沢池のほど近く、奈良の町並みから続くような施設エントランス=JIRINのある鹿猿狐ビルヂング

 

 「五重塔が目前にせまる窓際の席が人気。歴史を感じる町並みや眺望の中、創業について考え学び、インスピレーションが湧いてくる。そんな『効果』も期待している」と教えてくれたのは、井上公平さん(38)。中川政七商店が手がける奈良のまちづくりプロジェクト「N.PARK PROJECT」マネージャーとして、その拠点となるJIRINを立ち上げ、創業支援プログラムの企画・運営を行う。

 

明るく開放感のあるフロア。外には五重塔が=奈良市元林院町のJIRIN

 

 中川政七商店の創業は奈良晒(さらし)=麻織物の商いから。時代に合わせ改革を行いニーズに応えてきた300年の経験がある。同時に全国的な工芸品需要の減少や産地衰退を目の当たりにし、心を痛めてきた。価値ある工芸の灯を守るべく考えたのは、工芸を抱える「まち」全体の魅力を観光資源として楽しんでもらうために、新たなスモールビジネスの担い手を発掘・支援すること。

 

 そして、「個々の事業を継続する」ために基礎から支えるという考え方は「コワーキング(共に働き)×コラーニング(共に学ぶ)」を掲げるJIRINにも通じている。

 

JIRINの入り口。一時利用も気軽に声掛けしやすい雰囲気=同

 

 これまで携わった事業立ち上げでは、ネパール式のダルバードを提供し今や人気店の「菩薩珈」をビジョンづくりからPRまでサポート。既存の老舗企業の新たな取り組みとしては、同社が実施する教育講座を通じて、オリエンタルシューズの「懐かしくて新しい」スニーカーブランド「TOUN」が誕生した。

 

 井上さんは「奈良にも創業支援の施設が増え、チャレンジしたい人の受け皿が可視化されてきた。自身も以前は県外に情報を求めることが多かったが、今の奈良は人の集う魅力的な店や場所が格段に増えた。そんな集いの場のひとつとして学びを発信し続けたい」と笑顔を見せた。

 

「施設ごとに特色は違っても、奈良をより良くという志は一緒」と井上さん=同

 

▼BONCHI 中島さんから見た「JIRIN」とは?

豊富な講座に加え、出会いも学びも相談もできて、スモールビジネスを形にするサポートの手厚さを感じます。

 

▼bird bird 藤岡さんから見た「JIRIN」とは?

運営元の中川政七商店ならではのプログラムが豊富。学びがしっかりと結実する、自信を持たせてくれる場所ではないでしょうか。

 

 

大人も子も。商店街に地続きの感覚で開かれた場が、多様な利用者と可能性を引き寄せる「BONCHI」(2020年3月開業/ドロップイン利用も可)

 エントランスの吹き抜けが上下階の明るい空気や音を緩やかに運ぶ。4階へと上がると一変、窓からの自然光が引き立つモスグリーンの内装。中央にはベンチにもテーブルにもなる階段状の構造物が配置され、フロアの一部には玉石が敷き詰められるなど奈良らしい趣が。

 

奈良の天空を仰ぐことから名付けられた4階の空間「TEN」=奈良市橋本町のBONCHI

 

 フラットシートでゴロリと天を仰ぎながら仕事のアイデアに思いを巡らせる利用者の姿も。4階のテーマが「悠久」と知りしっくりきた。

 

 「5月からはこの場所で朝活のリフレッシュヨガもスタート。全体で意識したのは『ソトを感じるウチ空間』。人の行き交う雰囲気や外の気配が、逆に落ち着くと皆から好評で」と話すのは、BONCHIを運営する一般社団法人TOMOSU代表理事の中島章さん(40)。同施設は気軽に創業相談できる奈良市の複合コワーキングスペースとして誕生した。

 

1階のオープンフロアで談笑する中島さん=同

 

 もちいどのセンター街に面した1階は「喧噪」がテーマ。見渡すと奈良発のカフェ「ANY COFFEE BREW BAR」や、奈良素材の菓子店「ならBonbon」、絵本が並ぶキッズスペース、独自に選書した書店も。子どもから主婦、年配の方まで幅広い世代が思い思いに過ごす。

 

 一見「創業支援」とは直結しなさそうな光景だが、そこには「ひとりでに、持続可能な地域や社会が生まれる場所。」のコンセプトに繋がる小さな社会が存在している。加えて市や地元企業とのワークショップに創業セミナー、トークイベントも定期的に開催する。

 

施設外観。外は常に人が行き交うにぎやかな商店街で、日常の一コマでBONCHIに立ち寄る人も多い=同

 

 もとは民間団体「奈良移住計画」代表として、その運営を切り盛りしてきた中島さん。自身も過去に東京勤務を続ける中、地元である奈良への思いが募りUターン移住した経験があり、現在に繋がる糧となっている。

 

 「新しく一歩踏み出すのはハードルが高い。奈良らしい働き方の提案や、地域の資源を生かした新しい産業の育成をサポートする取り組みで『やってみたい』気持ちに寄り添い、不安要素を減らしたい。奈良を『いい仕事ができるまち』と感じてもらえたら」と話した。

 

「集中」がテーマの2階。中島さんも利用者の間にスッと溶け込み、パソコンに向かう=同

 

▼bird bird 藤岡さんから見た「BONCHI」とは?

多様な人が自然に集う場。コワークの場所でありつつ、地域に根ざした身近な雰囲気に安心感があります。

 

▼JIRIN 井上さんから見た「BONCHI」とは?

創業に限らず、参加しやすいイベントも多く魅力的です。多様な視点がBONCHIならではと感じます。

 

 

 観光だけではない奈良の持つ魅力に引き寄せられて、関東圏からの移住や、仕事の第二の拠点を奈良に移す人も増えている。県内在住者には「日常」になっている奈良の風景や人の豊かさ。一歩外に出て、働き方の環境を変えることで再確認してみては。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド