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金曜時評

どうする和解案 市民の利益が第一 - 主筆 甘利 治夫

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 裁判所の判断に注目している。

 

 今度の奈良地裁が示した和解案は、これまでの経緯を踏まえたものではないか。奈良市が昨年4月に同市横井町に開業させた新火葬場「旅立ちの杜(もり)」を巡って、土地の買収価格が鑑定額より高いとして住民訴訟があり、市は仲川元庸市長と元地権者に1億1640万円の損害賠償請求せよ、との高裁判決が確定していた。

 

 新火葬場が開業して1年の成果をみれば、旧火葬場時代との比較で、前年度より利用件数は大幅増加、使用料収入は1億2千万円も増えた。市外からの利用件数も10倍以上増加している。

 

 また逆に、市外の施設を利用した市民の数は、前年の1746件から186件に激減、これまで市民が高い使用料を負担してきたことが分かる。夏場に、何日も待たせることができず、やむなく市外の利用も多かった。額にして1億2500万円以上もの負担軽減といえる。

 

 こうした経緯もあり、地裁も和解案を示したのではないか。「全額賠償させることが妥当な紛争解決の手段とも限らず」「5割程度の賠償が相当」として、仲川市長と元地権者双方に3千万円の負担を求める内容となった。

 

 もともと1916(大正5)年に建設された旧火葬場は、100年以上も稼働を続け、老朽化も著しかった。何度も改修して維持、管理に多額の費用をかけてきた。また人口増に伴う火葬件数増で、火葬炉の性能も追いつかず、市民の4分の1が市外の施設を利用してきたのが実態だ。60年ほど前から、新火葬場計画が進められた。これまで多くの移転候補地が検討されたが、実現しなかった。新火葬場建設は市民の悲願でもあり、歴代市長や議会関係者にとっても懸案事業だった。

 

 仲川市長が期限内に合併特例債(総額約32億円)を利用、元地権者の理解を得て用地買収した。通常、鑑定価格は参考程度で、売主が価格を決め、売主の理解がなければ今の新斎苑もない。ましてや議会も同意しており、賛成議員も「市民の負担を減らしたい」という思いだったと信じたい。

 

 和解案に対し、仲川市長らは受け入れる姿勢を示し、市も手続き上、臨時議会に提案して判断を求める。開業から1年、市民の負担が1億2500万円軽減された。このまま推移すれば10年で約12億5千万円も市民の負担がなくなることになる。議会の同意で完成した新火葬場でもあり、慎重に審議したらいい。

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