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金曜時評

負の歴史も教訓に - 編集委員 高瀬 法義

 文化庁は先月、高松塚古墳(明日香村平田、7世紀末~8世紀初)の極彩色壁画の修復作業が完了したと発表した。特別史跡の古墳の石室を解体し国宝の壁画を取り出し修復するという、日本の文化財保護史上に前例のない大事業は一つの節目を迎えた。

 「飛鳥美人」などで知られる壁画は昭和47年に確認され、考古学ブームを巻き起こした。が、平成16年、カビなどによる壁画の劣化が判明。文化庁は同19年に石室を解体して壁画を取り出し、紫外線や酵素など最新技術を使った修復を続けてきた。研究者や技術者たちの努力でカビなどの汚れが除去され、発見時の姿には及ばないものの、一定の美しさを取り戻した。

 しかし、課題はまだ多い。これ以上、壁画の劣化が進まないよう適切な保存管理が最も重要だ。特に壁画が描かれた石材の強度低下が危惧される。これまで注目されることが少なかったが、石材に使われた凝灰岩は非常に脆く、長い年月の中で劣化が進んでいる。カビなど生物被害の防止のために湿度を抑える必要があるが、石材には乾燥は大敵であり、微妙な保存環境の管理が求められる。

 また、現在は仮設の修理施設にある壁画の安住の地づくりも急務だ。考古学では遺跡の現地保存が原則であり、古墳と一体で保存すべきとの声もある。しかし、古墳に戻すことは再び生物被害が生じる可能性が強く、現時点では現実的な選択肢ではないだろう。できれば、古墳近くに恒久的な保存公開施設を建設し、現行どおり定期的な壁画の一般公開を行うことが望ましい。

 壁画を傷つけることなく古墳から取り出し、修復に成功した今回の解体事業は文化財保存史上の金字塔といえる。石室解体を指揮した石工の左野勝司さんをはじめ多くの職人たち、壁画修復作業に携わった奈良文化研究所や東京文化財研究所などの研究者、技術者らのたゆまぬ努力の賜物といえるだろう。

 しかし 一方で、1300年間残った壁画を人為的なミスなどで劣化させ、古墳の中に保てなかった「負の歴史」であることも忘れてはいけない。さらに、多くの研究者の間で意見が分かれた石室解体の是非についても、結果が良かったからだけで終わらせず、今後も検証すべきだろう。

 見つかるかもしれない新たな古墳壁画を守るためにも、壁画発見から劣化、修理完了までのすべての出来事を後世への教訓としなければならない。

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