プロ野球の大御所、野村克也さんが亡くなった。平成にはヤクルトの監督として3度の日本一に輝いたが、筆者にとって京都出身の野村さんは「関西、昭和、月見草」とのイメージが鮮烈だ。

　昭和40年代、野村さんが南海ホークス選手時代に大阪球場で観戦した。試合前の練習で、敵の近鉄ファンから私生活をあてこすった強烈なヤジが飛んだ時、にやっと苦笑した顔が忘れならない。

　今の基準なら人権侵害ともいえる内容で、事実ヤジに激怒した選手もいたが、野村さんは違った。人間としての大きさを感じさせた。

　苦労人である。高校からテスト生で入団し、大阪で初めてカレーライスを口にして「こんなにうまいものが世の中にあるのか」と驚いたという。

　「王や長嶋がヒマワリなら俺は月見草」と自分を地味な草にたとえたが、実は「富士には月見草がよく似合う」(太宰治)を意識したプライドの高さをにじませる言葉だとの説も。

　晩年は好々爺(や)としてテレビで親しまれた。最愛の沙知代夫人の後を追うように同じ病気で急逝した。昭和の星がまた一つ消えた。(栄)