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野球・田中 露朝(たなか・あきの)投手 - 輝く奈良のアスリート

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アジアカップMVPのトロフィーを手にする田中露朝=宇陀市内

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 野球日本代表「侍ジャパン」の女子代表で投手として活躍する奈良県宇陀市出身の田中露朝(27)。優勝した今年5~6月のアジアカップでMVPに輝き、9月のワールドカップ(W杯)予選グループBでも全勝に貢献、来年夏に開かれるファイナルステージ進出を決めた。7連覇が懸かるW杯に向けた意気込みと女子野球への思いを聞いた。(竹内稔人)

 

 母の由香里さんによると、田中は生後10カ月で歩き出し、1歳の頃には公園のジャングルジムを制覇。保育所時代には、野球グラウンドのバックネットフェンスを大人が見上げる高さまでよじ登り、周囲の保護者たちが叫び声を上げたという“伝説”は今も語り草だ。由香里さんは「やんちゃでずっと動き回っていました」と振り返る。

 

 野球一家で育ち、兄に続いて7歳の時に地元の少年野球チーム「菟田野ワルサーズ」に入団。男子に交じり白球を追いかけた。

 

 菟田野中学校で入部した野球部は女子一人。男子とは体格やスピードに差があるが、「付いていけない感じはなかった」と田中。卒業後は女子野球部がある京都の福知山成美高校に進学。親元を離れての寮生活だったが、「やっと女子と一緒に野球ができて楽しかった」。投手として、3年夏の最後の高校選手権大会では優勝を果たした。

 

 大学は女子野球の強豪、尚美学園大(埼玉県)に入学。現在は企業チーム「ZENKO BEAMS」(本拠地・同県)に所属し、働きながらエースとしてプレーしている。

 

 ▽アジアカップMVPに

 

 右投げ右打ち。サイドスロー気味のフォームから繰り出す球速120キロ超のストレートと、「自信がある球」という曲がりの大きいスライダーが持ち味だ。

 

 2016年、大学2年のときに日本代表に初選出され、第7回女子野球W杯で優勝。18年の第8回大会にも連続出場し、決勝戦で胴上げ投手となった。

 

 今年5~6月のアジアカップでは投手リーダーとして投手陣を引っ張る立場に。先発出場したグループリーグのインドネシア戦と、決勝のチャイニーズ・タイペイ戦を無失点に抑え、3大会連続3回目の優勝に貢献。大会MVPにも輝いた。

 

 一流選手が集まる日本代表チームは、「刺激になる。学びしかない」と話す。

 

 ▽女子野球の環境整備を

 

 自身が小さかった頃と比べ、現在は女子の野球人口が増加。高校の女子硬式野球部も全国的に増えており、「野球をしたい女性の受け皿が整ってきている。選択肢が増えるのはいいこと」と歓迎する。

 

 ただ女子野球部があるのは私立校ばかりで家庭の負担が大きいのが課題。奈良県内の高校に目を向けると、女子野球部はいまだにないという。裾野を広げる環境整備はまだまだだ。

 

 女子野球を続ける子どもたちに向けては、「人との出会いを大切にし、野球を通して成長してほしい」とエールを送る。

 

 ▽W杯7連覇に向け意欲

 

 9月13~17日、広島県で開かれた第9回W杯予選グループB。田中も出場した日本は5戦全勝を飾り、来夏にカナダであるファイナルステージへの進出を決めた。W杯7連覇に期待が集まる。

 

 祖父は印傳(いんでん)製造工の南浦太市郎さん(71)。なめした鹿革に染色を施して漆で模様を描く奈良時代の技法を現代によみがえらせた「現代の名工」は、「これまで海外の試合までは行かなかったが、カナダでのW杯は現地で応援したい」と孫のさらなる活躍を楽しみにする。

 

 田中は「まずは日本代表メンバー入りを目指してオフシーズンでやるべきことをやり、W杯本番で自分の役目を果たせるようにしたい」。笑顔で語りながらきらりと目を光らせた。

 

 

 

 たなか・あきの

 1996年生まれ。9月のW杯予選では第3戦のベネズエラ戦で失点するも、最終戦のキューバ戦で3回無失点と雪辱を果たした。

 

2023年11月1日付・奈良新聞に掲載

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