万葉車窓
香具山―畝傍(JR桜井線) - 白妙の山に移ろう季節が
『 春過ぎて 夏来(きた)るらし 白妙(しろたへ)の 衣乾(ほ)したり 天の香具山 』
持統天皇の御製で万葉集の中でもよく知られる歌。白妙の衣は、神事に関する白い衣のことと思われ、神聖な香具山の風物により季節の移り変わりを詠んだ歌とされる。
梅雨入り直前、快晴の日に香具山周辺では田植えの準備が行われていた。 JR桜井線から南側には一面、田んぼが広がる。水が張られた田んぼに青空が反射する。
田植えを境に季節は春から初夏に移り変わるようだ。
香具山は写真右手、横になだらかに広がる山だ。大和三山の、他の畝傍山や耳成山とは趣がずいぶん違う。撮影地点は藤原京の大極殿跡とされる地点からほど近い場所。当時の人々にとって香具山はとりわけなじみのある山だったのだろう。
『 わすれ草 わが紐(ひも) に付く香具山の 故(ふ)りにし里を 忘れむがため 』
●参考=和田嘉寿男著「大和の万葉歌」(奈良新聞出版センター刊)
写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)