金曜時評

加害者出ぬ社会に - 論説委員 増山 和樹

 通学中の児童を狙った川崎市の殺傷事件は、発生から2週間が過ぎた。栗林華子さん(11)は好奇心旺盛で明るく、チェロが得意な人気者だった。小山智史さん(39)は外務省職員として日本とミャンマーの架け橋となっていた。2人の命が身勝手な犯行で奪われたことに、改めて強い怒りを覚える。悲しい事件が二度と繰り返されることがあってはならない。

 今回の事件は、両手に包丁を手にした男がスクールバスを待つ子どもの列を後方から襲撃した。大人であってもこの事態に対応するのは難しい。最初に襲われた小山さんは、背中の傷が心臓まで達していたという。各地で続けられる見守り活動がむなしくなるような事件だった。

 学校保健安全法は各校に安全計画や危機管理マニュアルの策定を義務づけ、平成27年度には99・3%の小学校が通学路の安全点検を実施した。通学路の「安全マップ」作りも進んでいる。これらの取り組みで死角になる箇所は把握できるが、今回のようにいきなり刃物で襲われるケースを含め、被害を完全に防ぐのは難しい。

 求められるのは、加害者を出さない取り組みである。川崎市の事件は襲撃した男が犯行直後に死亡し、動機が明らかになることはなかったが、家の中でも孤立を深めていたという。家庭や学校、職場など、生活の中で生じる孤立が加害の芽となるのなら、それを摘む手はあるはずだ。

 行政による相談窓口の設置や介入だけでなく、子どもの見守り活動を支えてきた「地域の力」を、孤立の解消につなげることはできないだろうか。お節介のように思われる声掛けが、その一歩になるかもしれない。地域コミュニテイーの在り方も問われている。

 9日に開かれた大阪教育大学付属池田小学校の「祈りと誓いの集い」で、佐々木靖校長は川崎市の事件を踏まえ、「加害者を出さないことを諦めたら学校は学校でなくなり、社会は社会でなくなってしまう」「命を大切にする取り組みに区切りはない」と呼び掛けた。8人の児童が犠牲になった校内児童殺傷事件から18年。社会に向けられた重い言葉としてその意味をかみしめたい。

 県内でも平成9年に女子中学生、同16年には小学生女児が凶行の犠牲となった。加害者を出さない取り組みに終わりはなく、悲惨な事件が二度と起きない保証はない。それでも事件のたびに進まねばならないことを、佐々木校長の言葉が教えてくれる。

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