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金曜時評

保護活用の均衡を - 編集委員 高瀬 法義

 文化財の活用に重きを置いた文化財保護法の改正案が衆院を通過した。参院で可決、成立すれば来年4月1日に施行される。

 文化財を生かした地域振興の促進が改正の狙い。市町村が文化財保存活用地域計画を作成し認定を受ければ国の権限の一部が譲渡され、国指定文化財が活用しやすくなる。国指定文化財の所有者も個別の計画を作り、美術館などに寄託して公開した場合は相続税猶予などの優遇を受けられる。

 さらに、地方教育行政法も改正し教育委員会が所管する文化財保護事務を首長が担当できるようになり、活用に向けた弾力的な予算編成が可能になる。これに先立ち、本県では保存と活用を両輪とした「これからの文化財保護体系」の素案を今年3月に策定。来年4月の文化財保護事務の知事部局移管を決めている。

 改正の背景には、過疎化・小子高齢化による継承者不足など地域の文化財を取り巻く現状のほか、インバウンド(訪日外国人客)に向けた文化財の観光資源化を進める政府の思惑がある。文化財を適切に活用し、生み出された財源で保護を図る戦略に異論はない。ただ活用を重視し過ぎることで、文化財自体の価値が損なわれるようなことがあれば本末転倒といわざるを得ない。

 一口に文化財と言っても埋蔵物や建造物、美術工芸、民俗など多種多様だ。中には活用に適さない物もあるし、所有者の事情によって公開もできない物もある。活用に適した人気の文化財だけに予算が集中し、他は軽視されてしまう恐れはないのか。

 また文化財の保護活用には、公明正大で客観的な調査研究による適切な価値判断が前提となる。公共事業で遺跡が見つかると、行政は開発と保護という二律背反の命題を抱える。これまで保護事務を教育委員会が担当してきたのは、その場合の専門的・技術的な判断と政治的中立性を確保する側面があった。首長が保護事務を担うのであれば、地方公共団体に必置となる文化財保護審議会の機能充実や権限強化を図り、厳しいチェックを行わなければならない。

 さらに、権限を移譲される市町村の専門職員の確保と財政支援も急務だ。専門職員に関しては、付け焼き刃的な対策ではなく、長期的な視野に立った人材育成が必要だろう。

 貴重な文化財を未来へ継承することはわれわれの責務であり、保護と活用のバランスを保つことが重要だ。決して政治的な思惑や経済論理を優先してはいけない。

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