このページでは、Javascriptを使用しています


奈良新聞WEB トップへ戻る
 
←次へ 前へ→
やまと建築詩

瀞ホテル(十津川村)

渓谷望む斜面の「楼閣」

MainPhoto

▲開放的な2階廊下から見た景色。取材は10月はじめだったため青々とした木々が茂る瀞峡。
壮大な景色がパノラマのように見える=写真は画像処理によるパノラマ合成

 奈良・三重・和歌山の三県にまたがる瀞峡(どろきょう)。瀞の字は深い水たまりを意味し熊野川の支流、北山川にある渓谷。吉野熊野国立公園の名勝として知られ、上流から奥瀞、下瀞と、それぞれ壮大な岩や深い原生林、青々とした清流による渓谷の自然の美が楽しめる。国の特別名勝と天然記念物に指定されている「瀞八丁」が有名で、下瀞は太古からの壮大な自然美が楽しめる。延長約31キロにおよぶ渓谷は、大正9年からプロペラ船で観光を始め、現在は川舟やウオータージェット船による観光が盛ん。

 「瀞のお宿」といわれた瀞ホテルのある十津川村田戸地区は、北山川のいかだ宿があった集落。岩が立ちはだかり上陸する場所が少ない流域で数少ない砂浜がある場所。現在も、ウオータージェット船の休息場として川魚を出す店などがあるほか、川舟の発着場所ともなっている。

 このホテルも大正8年に、和歌山県北山村出身の初代・東覚治さんが「あづまや」の名で、いかだ宿として開いた。現在残る建物はこの時のもの。「招仙閣」から「瀞ホテル」と名称を変えたが、2代目が「洋風の名前にしたくて付けた」といわれている。

▲ウォータージェット船の田戸発着所
から見えるホテル全景

▲瀞峡を描いた凝った欄間のある客室。
どの部屋からも渓谷美が楽しめる


 敷地内には本館とつり橋を渡っていく別館の2棟がある。本館は木造3階建て、お城をイメージした楼閣風のもの。玄関を入るとロビーとフロントがあり、奥は東家の居住部分。玄関から右に大きく曲がって階段を上ると2階廊下に。台風のとき以外は開け放たれた廊下から瀞峡の渓谷美がパノラマに見える。手すりも低く、落ち込むようなスリルと景観が一度に味わえる。

 2階には大広間と客間があり、階段でさらに上へ。天守閣のような3階には客間と風呂がある。斜面を利用したいわゆる吉野建て構造で、一般の浴室は地下に当たる1階にあるが、ここからも渓谷が見渡せる。このホテルは、水面からはるか上方にあるため景色が素晴らしいのだが、大きな台風のとき、約20メートル増水し1階部分が水没する、ということもあったらしい。

 眺望がよく、利用者に人気の高かったホテルも休館して4年になる。最後の当主となった東悦生さんが56歳で亡くなったためだ。末期には1日2組ぐらいしか泊まることができなかったが、予約して半年以上待って泊まりに来る常連客が多かったという。


▲十一号室と書かれた札。
この建物の歴史を感じさせる

▲崖に張り付くようにみえる建物。
長い階段が旅館らしい風情を出す


 インターネットで「瀞ホテル」を検索にかけると、宿泊利用者した人たちが「もう一度再開して」という熱いエールを送るページがたくさん出てくる。ホテル周辺は、特に夏場はラフティングやカヌーなど川遊びをする人も増え、若い世代が増えてきている。

 休館して5年近くなると建物の傷みも目に付くようになってきた。悦生さんの長男・達也さん(27)も、このホテルと共に育ってきた。「もう一度、何らかの方法で活用したい」と模索中だ。再開を待ち望むファンの声に応えられるか。これからも見守っていきたい。



DATA

● 瀞ホテル ●

十津川村神下田戸405

※現在休館中のため外観からの見学のみ可能となっている

情報が古くなっている場合がございますので、ご利用の際は必ず事前にお問い合わせください。

写真・文 本紙・藤井博信 (日本写真家協会会員)

会社概要採用情報新聞購読出版情報個人情報保護特定商取引法に基づく表示サイトマップ