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万葉の景色

平群の川、山

緑迫る渓谷の狩り場

渓谷

▲緑燃え、大きな岩がごつごつと立ちはだかる渓谷は、
万葉の昔、絶好の狩り場だったことを彷彿させる。
写真上は竜田川に寄り添うように走る近鉄生駒線(平群町椣原)

 連日30度を超す暑い日が続いている。涼を求め、「水のある風景」を訪れた。その第一弾、生駒山の東、矢田丘陵との間を流れる竜田川は、生駒と王寺を結ぶ近鉄生駒線と国道168号に寄り添うように流れる。さらに南、大和川に注ぎ込む手前、小高い丘のような三室山周辺は紅葉の名所として知られている。

 生駒を出発してしばらく川は何の変哲もなく、穏やかな流れが続く。ただ辺りは宅地開発が進み、山すそまで住宅が建ち並ぶ。景色が一変するのは東山を出て直ぐ。線路はここから単線になり、生駒市から平群町に入る。流れが早まり、渓谷という表現がぴったり。緑が迫り、電車も心なしかスピードが落ちた。

 5世紀後半に勢威を振るった平群氏の本拠地がこの辺り。いわゆる平群谷だ。往時、狩り場となり薬猟を詠んだ歌がある。薬狩(くすりがり)とは漢方で用いる鹿の角をとる行事という。

『 愛子(いとこ) 汝背(なせ)の君…韓国(からくに) の 虎といふ神を 生け捕りに 八つ捕り持ち来 その 皮を 畳に刺し 八重畳 平群の山に 4月と 5月と の間に 薬狩 仕ふる時に あしひきの この片山に  二つ立つ 櫟が本に 梓弓 八つ手挟(たばさ)み ひ め鏑 八つ手挟み 鹿待つと 我が居る時に さ雄鹿の 来立ち嘆かく たちまちに 我は死すべし… 』 作者不詳(巻16―3885)

 右の歌一首、鹿のために痛みを述べて作る、とある。「乞食者(ほかいびと)」と呼ばれる放浪の芸能人が宮廷で鹿に扮(ふん)し行うパフォーマンス。さて、「平群の山」まで来たところで、長歌は本題に入る。初夏のある時期、盛大に挙行される薬狩に加わった乞食者の目の前に一頭の鹿が現れ、身の上を嘆き語る。その趣旨は、間もなく捕らえられ死ぬ運命にある自分だが、そのすべてが大君の御料として役立つ、その光栄を歌に乗せ褒めたたえる。鹿に扮した乞食者はどんなふうに演じたのだろうか…。

 電車は元山上口に着いた。この間、数分だが昔の猟場を彷彿(ほうふつ)させる景色に出合えた。

鉄橋

▲川に架けられた勧請縄のすぐ脇に鉄橋が…。
車内からも見え、ほんの一瞬だが見慣れた住宅街から離れ、
別世界に迷い込んだようだ


写真と文 牡丹 賢治

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