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金曜時評

通常時こそ備えを - 編集委員 増山 和樹

 東日本大震災から4年目の3月11日が過ぎた。復興事業に伴う発掘調査のため、県内から専門職員が派遣されていることはあまり知られていない。県教育委員会は半年交代で1人ずつ、奈良市教育委員会も1年単位で1人を派遣している。被災地での調査は、そこに暮らしてきた人々と向き合い、「災害下の文化財」を考える機会でもある。

 平成25年4月から1年間、岩手県陸前高田市に派遣された奈良市埋蔵文化財調査センターの安井宣也さんは、奈良県で同じような事態が起きた場合、何ができるのか、どうすればいいのか、今から考えておく必要があるという。

 県内は埋蔵文化財の宝庫であるばかりでなく、国宝・重要文化財の件数が東京都、京都府に次いで全国で3番目に多い。仏像など彫刻に限れば全国1だ。南海トラフ巨大地震の発生が遠くないとされる中、文化財が被災する事態は考えておかねばならない。埋蔵文化財でも、遺物の破損や散逸が想定される。

 さらに、復興に伴う調査をどのように進めるか。昨年7月に開かれた東北派遣職員のシンポジウムでは、通常時の文化財行政のあり方が、非常時の対応を左右するとの指摘があった。復興調査の核になるのは地元の職員である。

 ただ、専門職員の数は市町村によって大きく異なる。県内には全国有数の調査・研究機関である県立橿原考古学研究所と奈良文化財研究所があり、「災害下の文化財」について、3者が協議のテーブルを設けてもよいのではないか。

 もう一つ忘れてならないのは、心のケアである。安井さんが派遣された陸前高田市では、職員の約3分の1が津波で亡くなった。助かった職員の一人は「生き残ったのは自分だけだから」と猛烈な勢いで仕事に打ち込み、感情の消えた表情で震災を語ったという。

 安井さん自身、職場に復帰後、環境の変化に適応するのに時間がかかった。何をしてよいか分からず、現地のことを話すたびに肩の荷が下りるように感じたという。周囲がその状況を理解し、被災地への思いを共有することが重要だ。

 文化財の被災は重大な事態だが、それを生んだ地域の歴史は厳然としてそこにある。だからこそ、文化財の復興は住民の心に灯をともすことにつながる。東日本大震災の教訓を県の文化財行政にどのように反映させていくのか、考える時期が来ている。

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