注目記事山下県政 世論調査の全結果掲載

金曜時評

身近な存在大切に - 編集委員 辻 恵介

 最近、立て続けに雪国の過疎地で、独居老人らの食生活を支える人たちのドキュメンタリー番組を見る機会があった。一つは山深い集落をワゴン車で巡回し、一軒一軒を訪ねて食料品を販売する“移動式ミニスーパー”の話。もう一つは、配達だけでなく、顧客のお年寄りの病院の送迎まで行い、店内はお年寄りのサロンと化した、昔でいうところの「よろずや」さんの奮闘記だった。

両方とも、いわゆる限界集落状態で、雪深く、あるいは高齢や病気で外出できず、不便な暮らしを余儀なくされているお年寄りの、まさに“生命線”ともいうべき存在だった。ワゴン車で走る男性も自分が老境に近付き、いつまで続けられるかと不安を口にしていた。

 本来は、等しく行政のサービスが受けられるべきなのだろうが、山間の集落までは届いていない。民間人が高齢者を支えている。これは何も雪国の過疎地だけの問題でなく、わが国における一つの縮図のように思えた。

 都市部と言われるような地域でも、小売店が減り、大きな駐車場を備えた大型店舗だけが、活況を呈している。車がない場合、買い出しだけでも高齢者には大きな負担だ。

 ところで先日、奈良市の第4次総合計画の基本構想・基本計画案が、臨時市議会で否決されたが、この中で市の出先機関である市内11カ所の連絡所統廃合問題が話題になった。

 市は昨年の事業仕分けでこの連絡所を「要改善」とし、12月議会で23年度末をメドに原則廃止を打ち出したが、地元から大きな反対があり白紙撤回したという流れがある。

 連絡所には、いろいろな証明書の交付の取り次ぎや、地域に暮らす人々の連絡・調整などの業務があるが、仲川市長のいう「広域をカバーする出張所」では住民を十分にフォローできない要素もあるように思う。例えばそれは、何かあった時のための、心のよりどころ、とでも言おうか。

 住民の身近にある大事な「存在」だからこそ、地域住民は反対したのであろう。出張所まで「足」のある人はいいが、そうでない人の方が多い。効率化を図る目標は分かるが、住民の意見を聞き、住民にとって身近な存在を大事にするという行政の視点がほしい。

 一方、地元住民との調整不足で開館が延期となっていた奈良市の市保健所・中央保健センターおよび教育センター(同市三条本町)は、ようやく住民との合意がなされ、4月1日の開業が決まった。

 開業の遅れは、市に対して同施設を「にぎわいのまちづくり」に活用したいと要望活動をしてきた地元の大宮地区自治連合会に対して、説明や調整のないまま、市が開館日などを発表したことに住民らが反発したことによる。ちょっとした行き違いのようだが、住民への説明の大切さが浮き彫りになった。

 住民にとって身近な存在とは何か、行政はそのことをよく考えて、住民の声を生かした施策を大事にしてほしいものだ。

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