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金曜時評

選挙後にこそ課題 - 編集委員 北岡 和之

 「政権選択」を一番の争点とする第45回衆議院議員総選挙は、いよいよ30日に投票を迎える。各候補・陣営は残すところ2日となった選挙戦に全力を挙げる。

 「げたを履くまで分からない」。これが選挙の鉄則だ。民主党優勢の状況は、本紙が行った県内有権者アンケート調査からもかなりはっきりと浮かび上がっている。しかし、取材現場からは自民党の強烈な追い上げという声も届いており、予断を許さない。政党としての実績や経験を十分に蓄積してきた自民党の底力は誰もが認めるだろうからだ。

 今回の衆院選について、8月選挙ということもあって戦争や平和、外交も大切な争点の一つと見てきた。この問題に関連して、以前から読んでみたいと思っていた故大岡昇平さんの戦記文学『レイテ戦記』(中央公論社)を、たまたま奈良市内の古書店で見かけて買った。全3冊。終戦記念日までには読了したいと取り掛かったが、果たせなかった。

 細密な記録が大半だが、著者の思いはしっかり伝わってくる。「日本人が最後の1人まで戦う決意を固めて、敵に人的損害を与えれば、民主主義国家アメリカはやがて戦争をやめたいといい出すだろうと思っていたわけだが、どこの国でも戦争の指導者は似たようなものである」(レイテ戦記)。また著者は、フィリピンという他国の領土で日米両国が戦った意味についてもよく考えている。

 あの戦争で、わが国に訪れた結末は「敗戦」だった。厳しい敗戦期から立ち直った経緯は、高く評価されている通りだと思う。ただし、あの戦争を決して忘れてはならないし、戦争指導者だけの問題にしてもならない。

 敗戦から60年以上を経て平成21年の現在、時代の状況はどうなっているのか。目についたのは文芸批評家・吉本隆明さんの「第二の敗戦期」という指摘だ。その著書で「戦中派である僕らの世代は、本当の飢えを知っています。…(現在の若い世代は)本当の意味で貧しい育ち方をしてきたわけじゃないから、本当の問題は貧困というより、何か人間の精神的な抵抗力が弱くなってしまったことにあるのかもしれません」(『貧困と思想』青土社)と書いている。

 仮に「第二の敗戦期」という見方が当たっているとして、その根っこの問題は何か。これを乗り越えていくにはどうすればいいのか。今回の衆院選で、県内有権者へのアンケート調査でも、政権交代へのかなり強い期待がうかがえる。また民主党とか自民党といった特定の政党への期待というより、政権交代それ自体への期待、「変える」こと自体への期待という思いのような感じがする。

 時代は厳しく、難しい。一般庶民はそのことを十分承知しており、だからこそ政治への期待は大きい。だが庶民は冷静であり、決して踊ったりはしない。政権交代が現実になったとしても、政界再編がどうなるか、この次の国政選挙がどうなるかなど、全く読めない。

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