特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

自ら歴史的主役に - 論説委員 小久保 忠弘

 組合の委員長選挙を報じるビラに、2人の得票同数で「決戦投票へ」と書かれた見出しがあった。「決選投票」の間違いだろうと思ったが、よく間違われやすい表記の裏には、決闘でもしかねない対決の気分があったのかもしれない。折しも現下に展開されている衆院選は、政権選択を懸けた「天下分け目」の戦いだという。まさに食うか食われるか、竜虎相食むような死闘が繰り広げられている。各党が候補を立てての選挙戦であるにもかかわらず、自民―民主の2大政党対決の構図となり、小選挙区の1議席をめぐる「決選投票」の様相である。

 天下分け目とは、豊臣政権後の覇権をめぐって争った関が原の合戦。民主を軸にした野党が東軍で、自民・公明の与党が西軍か、その逆か。歴史は東軍勝利のあと約300年続いた徳川幕府の基礎をつくったと教える。果たして史実をたどれば、当初は双方互角だった戦いが、味方の裏切りによる西軍の潰走により勝敗が決まったという。

 そうみると「一寸先は闇」といわれる政治の世界で、これから先1週間余の選挙中に何が起きるか予断を許さない。半世紀も続いた自民党政権がむざむざと敗れ去るとは思えないし、そこに根を生やした政官財の体制がコテンと倒れるだろうか。世界に冠たる官僚機構の巻き返しなど予期せぬ事態もあるとみなければなるまい。

 それにしても大方の見るところ、現状からの「チェンジ」を望む声は県内にも充満している。この声をいかに政策に取り込むことができたか。各党のマニフェストをつぶさに検証してみなければなるまい。地球環境や核廃絶を含めた世界平和の維持に日本として応分の責任を果たすのは当然だが、周囲に引きずりまわされるだけの外交から、毅然とした主体的外交への脱却が求められよう。戦後政治・経済の総括も必要だろう。

 なかでも県勢の活力の源泉であった農林業を再生させる道はあるのかどうか。今はやりの道州制移行で、本県のような弱小地域は生き残れるのかどうか。これら地域特性にかなった政策を提示できているかどうかも細かくチェックしなければならない。

 各党が現実を正しく分析し、直視した上で組み立てた政策であるのかどうかも見る必要がある。政策はバーゲンセールではない。バナナのたたき売りよろしく、とにかく買ってくださいでは話にならない。どう見ても荒唐無稽(こうとうむけい)な奇策はともかく、似て非なる社会保障や課税基準、さらに安全保障にいたるまで、それぞれの整合性や根拠を吟味する必要があろう。歴史的場面に立っているのは有権者自身である。選挙は自ら主体的に演じることができる楽しみでもある。

 いずれにしても「政権選択」の判断材料となる政策論議になお耳を傾け、21世紀の日本を、ひいては豊かな奈良県の青写真を描きうる政党、候補者を真摯(しんし)に選びたい。

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド