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金曜時評

文化財の防災 住民の理解不可欠 - 編集委員 高瀬 法義

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 1月26日は「文化財防火デー」だった。1949(昭和24)年のこの日、現存する世界最古の木造建築物、法隆寺金堂(斑鳩町)で火災が発生し壁画が焼損。この出来事は文化財保護法制定のきっかけにもなり、同寺では教訓を忘れないよう毎年、防火訓練などに取り組む。1月1日には能登半島地震が発生し、多くの歴史的建造物や美術工芸品などの被害が報告されている。今年の文化財防火デーは、かけがえのない文化財を守る難しさを改めて考えさせられる日となった。

 

 近年、地震や火事などの災害で文化財が被害を受けるケースが相次ぐ。2016年の熊本地震での熊本城損壊や19年の首里城(那覇市)の焼失などが記憶に新しい。こうした中、国立文化財機構は20年、文化財の減災と災害時の初動対応の迅速化を図るため、「文化財防災センター」を開設。本部(事務局)を奈良市の奈良文化財研究所内に設けた。能登半島地震でも文化財の被災状況を確認するため、文化庁と連携した調査を1月12日から開始。今後、調査結果を基に被災した文化財の保全や今後の復旧事業への技術支援などを行う予定だ。

 

 報道では、国登録有形文化財に指定された総持寺祖院(石川県輪島市)など歴史的建造物の被害が伝わるが、被害は建造物にとどまらない。美術工芸品や古文書などは破損だけでなく散逸の恐れもあり、地元自治体では倒壊した家屋などにあった品もすぐに処分しないよう呼びかけている。さらに、工房や店舗が大きな被害を受けた国の重要無形文化財「輪島塗」をはじめ、無形文化財への影響も危惧される。11年の東日本大震災などでも災害をきっかけに後継者がいなくなり、多くの伝統行事が途絶えてしまった。

 

 災害時には住民の安全や生活が最優先となり、文化財が被災しても目を配りにくい。しかし、長い間、地域に受け継がれてきた文化財も住民の生活や心に必要不可欠のものであり、高妻洋成・文化財防災センター長は「社会に欠くことのできない社会インフラになるのでは」と論文などに記す。さらに、その認識を定着させるために、学校教育や社会教育などを通して「地域の文化財」に対する意識を高めていく必要を訴えている。

 

 災害が少ないとされる本県も決してひとごとではない。「いつか来る日」に備え、歴史的建造物の耐震化などに取り組むとともに、「地域の文化財」に対する住民の理解を広める必要があるだろう。

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