募集「悩み」や質問募集 僧侶3人がお答えします

金曜時評

発掘の情報公開 冷静な視点も必要 - 編集委員 高瀬 法義

関連ワード:

 弥生時代の大規模集落跡「吉野ケ里遺跡」(佐賀県吉野ケ里町、神崎市)で、未調査だった「謎のエリア」で見つかった石棺墓(せっかんぼ)の調査が行われた。墓の年代は2世紀後半〜3世紀中ごろと推定。纒向遺跡(桜井市)などと並び同遺跡が有力候補地とされる邪馬台国の時代と重なる。期待された鏡などの副葬品は見つからなかったものの、全国的に注目を集めた。

 

 また、積極的な情報公開も話題となった。通常の発掘調査は非公開で、終了後に報道発表や一般向けの現地説明会が行われる程度だ。しかし、調査を担当した佐賀県は今回、昨年5月の発掘開始から、「ナゾホルよしのがり」という独自のホームページやSNS(交流サイト)でさまざまな情報を発信。現場にカメラを設置し、発掘の様子などのライブ配信も行った。石棺墓の開口作業も大勢の報道陣が見守る中で行われ、その様子はインターネットでも伝えられた。国営歴史公園として整備され、警備面の心配が少ない吉野ケ里だからこそ可能な取り組みといえるが、考古学と一般市民との距離を縮めることに貢献した。

 

 県内でも、蛇行剣など「国宝級」の遺物が見つかった富雄丸山古墳を調査する奈良教育委員会が、動画投稿サイトやSNSを使った積極的な情報発信に取り組む。IT化が進む中、こうした「見せる発掘」は増えていくだろう。

 

 一方で、専門家からは「考古学は宝探しではない」との意見もある。今回の吉野ケ里は10年ぶりとなる本格的な調査で、約30年前の「吉野ケ里フィーバー」を再び、と佐賀県の期待は大きかった。そのため、邪馬台国に関連付けるような発表やマスコミの報道が目立った。しかし、被葬者の身分や時代を推測できる出土品がないにも関わらず、石棺墓を「弥生後期の有力者の墓」と早急に断定したことへの疑問の声も出ている。

 

 国は2019年、文化財の「保護」だけでなく「活用」を重視するため、自治体の文化財部局を教育委員会から首長部局に移転できるように関連法を改正。佐賀県も知事部局が主に活用の観点から発掘調査を行っているが、成果を求めすぎてはいないか。少なくとも知事自らが発掘調査の記者会見で成果を発表する姿には違和感を感じる。

 

 考古学の面白さを一般の人にも分かりやすく伝えるためには、発掘調査の積極的な情報発信は必要だ。ただ、発掘はショーではない。情報を発信する方も、受け取る方も冷静な視点が必要だ。

関連記事

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド