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【インタビュー】上椙英之・奈文研埋蔵文化財センター研究員 - 石碑文字判読アプリ「ひかり拓本」の可能性

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 奈良文化財研究所(奈文研、奈良市)は石碑の文字をスマートフォンで判読するアプリ「ひかり拓本」を開発・公開するため、必要な費用を募るクラウドファンディング(CF)を実施している。アプリが完成すれば全国各地に数多くありながら風化が進んで文字判読の難しい石碑を、市民の手で手軽に調査できるという。石碑の記録や地域史の研究が急速に進展しそうだ。開発者の上椙英之・奈文研埋蔵文化財センター研究員(人文情報学)に将来の可能性を聞いた。

 

「ひかり拓本」アプリ開発のクラウドファンディング(CF)

 

 CFサイト「READYFOR(レディーフォー)(https://readyfor.jp/projects/hikaritakuhon01)で12月2日午後11時まで募集。第二目標金額は500万円。支援は5000円から100万円までの13コースがあり、コースによりリターンの特典がある。目標に到達しない場合は全額返金する。寄付金は所得税と法人税の税制優遇措置もある。スマホアプリの開発・公開は、ひかり拓本プロジェクトの研究チーム(奈良文化財研究所、東北大学災害科学国際研究所、東京大学史料編纂所、東京大学地震研究所、九州保健福祉大学、神戸学院大学、国文学研究資料館)の協力を得て取り組んでいる。

 

 ――「ひかり拓本」開発のきっかけは。

 

 学生時代、ある特定の石碑について調査していたのですが、数が少なく各地に点在していました。夏休みに石碑を回り撮影していたのですが、当時はデジタルカメラが高価で手が出せなかった時代。使い捨てカメラで撮り、家に帰って現像するものの石碑の文字が読めない、ということがよくありました。石碑のある場所は遠隔地が多く手間がかかるのです。

 

 また都市化により、石碑が突然なくなってしまうことがあります。先人がメッセージを込めた石碑はその場所にあることが重要なのですが―。東北地方にある石碑は、2011年の東日本大震災で流されて再調査できないということもありました。

 

 しかも石碑の多くは長年の雨風で風化が進み、文字が読みづらくなったり、文字が刻まれた表面がはがれたりと劣化がどんどん進んでいる状況にあります。

 

 石碑に刻まれた文字を読める形で記録したい。記録の方法の一つに、古くからの手法の拓本がありますが、遠隔地まで道具一式を持っていかなければなりません。石碑1基の拓本を採るのに時間もかかります。それを複数個所採って回るのは現実的に厳しい状況でした。

 

 もう一つの方法は懐中電灯の光を斜めに当てて影をつくり、その形を読むアナログ的な調査手法です。ただ懐中電灯を動かすと影の形も変わってしまいます。そして一部の文字を読むことができても、ほかの文字を同時に読めないといった難点がありました。

 

 石碑の文字判読は一般の方にも難しいと思いますが、研究者にとっても課題となっているのです。

 

 そこで考えました。一方向からの光で一部の文字は見えるから、その画像を重ねていくと全部の文字が判読できるのでは―。調査の現場から生まれた発想が「ひかり拓本」で、画像処理の勉強を重ねて出来上りました。

 

平城宮跡の保存記念碑(上)=奈良市二条町(上椙英之研究員提供)
「ひかり拓本」を使って作成した画像(下)=奈良市二条町(上椙英之研究員提供)

 

 ――実際にはどのような技術ですか。

 

 学生時代の2016年にひかり拓本を開発したのですが、テーマとしたのは「安価」「容易」「迅速」です。

 

 石碑に刻まれた文字にさまざまな角度から光を当て、それぞれの影を撮影していく。そして撮影した複数の画像を合成する技術になります。一方向から光を当てて写真をパシャリ、次は角度を変えてパシャリ。これを繰り返して画像を合成すると、普通に撮影した写真では読みにくい文字も判読できるようになります。

 

 既に開発しているのはWindowsアプリで、カメラと三脚、パソコン、ライトがあれば撮影が可能です。画像処理の時間も合成画像1枚につき1~2秒程度で、5分もあればその場で撮影と作成が完了します。小学生でも利用することができます。

 

 従来石碑で採用されてきた拓本は石碑を汚す恐れがありました。一方向から光を当てて画像を撮影する手法も、全体の文字が読みにくいケースが多くありました。しかしひかり拓本では安全で簡単に碑文を判読できることができます。

 

 屋外のさまざまな条件下でも柔軟に対応できる技術で、2021年8月には独立行政法人国立文化財機構が特許を取得しました。

 

 ーー碑文を判読することはどのような意味がありますか。

 

 石碑には何らかの理由で先祖が未来に向けて残したメッセージが残されています。このメッセージを読み解くことで、歴史的意義のある発見や私たちの生活に直結するような新たな発見を得る可能性があります。

 

 代表されるのは「自然災害伝承碑」です。2011年の東日本大震災では実際に住民の命を救った事例として、岩手県宮古市姉吉地区の石碑が注目されました。

 

「ひかり拓本」で作成した岩手県宮古市姉吉地区の
自然災害伝承碑の画像((上椙英之研究員提供)

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