逢香の華やぐ大和 吉野神宮(奈良県吉野町)
吉野神宮(奈良県吉野町)を訪ねて
見ごろのアジサイの七曲坂を経て神宮へ
書家の逢香さんが県内の神社仏閣などを巡り、季節の草花や魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は吉野町の吉野神宮です。(高橋智子)
近鉄吉野駅から出発
古くからサクラの名所として知られる吉野山(吉野町)。春は山肌一面に「一目千本」のサクラ、秋には紅葉が広がる。「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録されている。
「実はこの季節、アジサイもきれいなんです!」。近鉄吉野駅にやってきた逢香さんは、駅前の葉桜を横目に七曲(ななまがり)坂へ。
七曲坂あじさい園
近鉄吉野駅から5分ほど歩くと、吉野山の玄関口、「七曲坂あじさい園」に出る。約4千株のアジサイはシカの食害で減少しているが、見頃は6月後半。最盛期はアジサイの花が山の斜面を埋め尽くす。
逢香さんが「いい坂ですよ」とおすすめする七曲坂=いずれも6月2日、吉野町吉野山
6月初旬の取材日、木漏れ日の落ちる坂道を上がりながら、逢香さんは早咲きのアジサイを見つけた。緑から水色に変化する涼しげな色に見とれ、「これからが楽しみですね。華やぐわ~」。アジサイの色は、土壌にアルミニウムイオンがあると青色に、ない場合は赤色になるという。
七曲坂のアジサイ。葉陰で休むカタツムリを発見!
昨年11月、金峯山寺で個展を開いた逢香さん。近鉄吉野駅からこの坂を上がり、約30分歩いて会場に通ったとか。「秋は紅葉がめちゃくちゃきれい。ここはいい坂ですよ」。イチ押しの坂道のようだ。
吉野神宮
続いて逢香さんは吉野神宮へ。大鳥居前で空にほえるようなこま犬に目が止まった。「スラっとして足が長いですね~」。長崎の平和記念像で知られる彫刻家、北村西望の作という。
吉野神宮のりりしいこま犬
吉野山の北にある吉野神宮は、吉野朝廷を構えた後醍醐天皇を祭るため、明治天皇が創建。京の都に戻りたいと切望した後醍醐天皇の思いをくみ、神社の本殿は北を向いている。
今年5月、建物26棟、鳥居など3基が国重要文化財に指定されることが決まった。本殿に向かって地盤面を高くする配置や、建物が連なる複雑な屋根の構成が、近代神社建築として高く評価されている。
魔よけのハート♡
「建物にハート形の模様があるのが分かりますか?」と東(ひがし)輝明宮司(56)。よく見ると、本殿の三角屋根の角にハート形が。イノシシの目を表す「猪目(いのめ)」という魔よけの模様で、日本に古くからあり、吉野神宮でもたくさん見られるという。
魔よけの猪目が施された本殿を説明する東宮司
逢香さんは「隠れミッキーのように探すのも楽しいですね!」。建物内をぐるりと眺め、飾り金具などに猪目模様を見つけた。
くぎ隠しの金具にも猪目が
境内で華やぐ
立派な社殿を構える吉野神宮だが、インターネットで「何もない」と書き込みを見た東宮司。そこで女性が喜びそうなしつらえを考えた。かつて境内にあったツルの像にちなみ、手水舎に深緑のカエデや赤、青、黄色のフィルム製折りヅルを浮かべている。境内の華やぐスポットを巡った逢香さんは「わ~カラフルできれい! 涼しげです」。矢倉につるされた約250個のガラス風鈴は、風が吹くたび透き通った音色を響かせ、逢香さんは目と耳で涼を感じた。
清涼感あふれるツルの手水舎
ガラス風鈴の涼しげな音色が響く
※取材は6月2日。天候、気候などで草花の状態や景観が変化することがある。
カラフルに巫女ら手作り
猪目模様のお守り
拝殿では、形や色どり豊かなお守りを授与。「わ~かわいいですね!」と目移りする逢香さん。
吉野神宮では、「猪目」模様を水引で表現したお守り(1000円~)や御朱印留めなどを、巫女(みこ)らが手作りしている。サクラや若葉、アジサイ、紅葉など、季節感のあるかわいらしいデザインが参拝者に人気だという。縁結びの意味合いも持つ水引の結び目を、花形にアレンジするなど細やかな心遣いも喜ばれている。
水引で猪目を表現したお守り
逢香の目
今回の旅を通し、吉野山の新たな魅力を発見した逢香さん。水墨画でアジサイとカタツムリを描き、ひらがなの雨を降らせた。「いのめいのめ ふうりんふうりん やくわりたま よしの こまいぬ あじさいあじさい ななまがりさか ごしゅいん つるつるつるつるつる」。逢香さんは七曲坂で見た水色のアジサイや吉野神宮の風鈴、折りヅルの歴史などを振り返り、「サクラ以外にもこんなに見どころがあるんだと思いました」と話した。
完成した逢香さんの作品。アジサイに文字の雨を降らせた
メモ
◆七曲坂あじさい園
吉野町吉野山。近鉄吉野駅から坂の入り口まで徒歩約5分。下千本駐車場から徒歩約5分。一般車は通行できない。問い合わせは吉野山観光協会、電話0746(32)1007。
◆吉野神宮
吉野町吉野山3226。近鉄吉野神宮駅から坂道を上がり徒歩20分ほど(約1㌔)。拝観は午前8時30分~午後5時。拝観無料。駐車場あり。電話0746(32)3088。
◆書家/逢香(おうか)
奈良市在住。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。6歳から書道を学ぶ。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛けるなど活躍中。大学入学後、変体仮名の授業をきっかけに個性豊かな妖怪たちに興味を持ち「妖怪書家」としても活動。奈良市観光大使。
「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で13日に放送。