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農水省・観光庁インタビュー  奈良県開催の意義 - ガストロノミーツーリズム世界フォーラム

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奈良県の「伸びしろ」大きく

農林水産省 大臣官房審議官(輸出・国際局、新事業・食品産業)
安楽岡 武氏に聞く

安楽岡 武氏

 

 ー「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」奈良県開催の意義は。


 奈良時代に編纂(さん)された『万葉集』には、五穀や果物、魚介、発酵食品などいろいろな食材、食文化が登場する。当時から生活に、食は密接にかかわってきたことが分かる。

 

 日本は北海道から沖縄まで、多様な食文化があり、インバウンドを考えるときに、ガストロノミーツーリズムは不可欠な要素だ。日本文化の原点である、奈良での開催は意義深い。地域の観光業のほか、農林漁業や食品産業などの関係者が、より連携を深めることで新たな価値が生まれ、地域活性化につながる。今回のフォーラムが、日本全国の地域活性化のきっかけになればと思う。

 

鶏肉と牛乳を使う伝統料理「飛鳥鍋」

 

 ー地域の伝統や文化に根差した「食」が見直されているが、農水省の取り組みは。

 

 食文化は地域の重要な資産だ。全国各地で、それぞれの強みを生かした地域の活性化戦略を描いているが、欠かせないアイテムとして、食が見直されているのではないか。

 

 特に和食は、2013年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されて以来、さらに世界的関心が高まり、健康ブームと相まって、日本食レストランが世界中に広まっている。

 

 一方、国内では、ライフスタイルの変化などで、和食文化や郷土料理の継承が心配な状況もある。

 

 農水省では和食文化の継承に注力しており、中核になる「和食文化継承リーダー」の育成や、官民協働で取り組む「Let’s!和ごはんプロジェクト」、郷土料理の歴史やレシピを地域単位でデータベース化した「うちの郷土料理」などを展開している。

 

 来年度からは発酵食品や和菓子など、地域に古くから存在している食材の特性を生かし、受け継がれてきた伝統食品を掘り起こし、多角的な価値を国内外に発信する事業を計画している。

 

 2023年は「和食」のユネスコ無形文化遺産登録10周年、2025年には大阪・関西万博開催と、世界中から注目を集める機会に、日本の食文化を大いに発信していきたい。

 

 ーコロナ禍収束後を見据え、訪日外国人に日本の食文化の魅力を発信するには。

 

 外国人を対象に行った旅行アンケートで、コロナ禍後に行きたい国のトップは日本で、日本旅行の最大の楽しみは日本食だという結果がある。日本食レストランは世界中に約16万店あり、昨年はコロナ禍にもかかわらず、農林水産物・食品の輸出額が前年比26%増で、長年の悲願だった1兆円を超えた。中食・内食含めて、日本食が世界中でかなり浸透してきた証左だろう。


 こうした中で、来日してもらえば、海外では味わえない本物の美味(おい)しさや、全国津々浦々の郷土料理を楽しんでもらうことも可能だ。特に欧米の方は体験型や歴史文化をストーリーとして楽しむ観光を好む。地域住民との交流や温かいおもてなしも大切。そうした日本の食の多面的な魅力をしっかり発信し、誘客することが重要。

 

 訪日の機会を最大限生かし、日本でしか味わえない食体験をしてもらうことで、母国へ帰ってからも越境ECなどで日本食を味わってもらえば輸出につながる。さらに新たな発見を楽しみに、リピーターとして再来日してもらうような好循環をつくりたい。

 

 農水省では、地域の食文化と観光資源を活用し、関係者が一体となってインバウンド誘致に取り組む地域を農林水産大臣が認定する「SAVOR JAPAN(セイバー〈=味わう〉ジャパン)」という事業も実施している。現在までに全国37地域の取り組みを認定した。残念ながら奈良県はまだだが、歴史文化や景観、史跡、伝統行事など地域の様々(さまざま)な資産と食を組み合わせた各地の取り組みは参考になると思う。

 

 また、食と異分野の体験をかけ合わせた事業者の取り組みを支援する「食かけるプライズ」も実施しており、受賞者には動画作成などPR活動を支援し、地域の食文化の魅力を一体的に発信していく。

 

 ー農業の担い手を増やすための持続可能な農業とは。

 

 農業に希望や誇りを持てることが大事。人口減少社会の日本は、2050年に人口2割減だが、世界は3割増。世界に目を向ければ大きなチャンスがあり、2030年には農林水産物・食品輸出額5兆円という大きな目標を掲げている。

 

 地域に根差し、貢献しながら世界とつながる「グローカル」という意識が強いと言われる若い方々に、こうした可能性を伝えたい。また昨年、農水省は「みどりの食料システム戦略」を発表。地球温暖化や食品ロス問題など、持続可能性が農業分野でも重要な課題となっており、イノベーションを軸に食料・農林水産業の生産性向上と、持続性の両立を図っていく。

 

 例えば有機農業やスマート農業をどう拡大していくか。2050年のカーボンニュートラル実現という政府目標にも合わせ、輸出と持続可能性の両輪で、担い手が希望と誇りを持てる形にしていきたい。

 

 ー奈良県の食文化で、興味を持ったものはありますか。

 

 昨年10月に奈良を訪問し、大和野菜を使ったレストランで食事をした。大和野菜は見た目はかわいらしく個性的だが、非常に美味しかった。「これが日本の野菜のルーツなんだな」と思いながら楽しませてもらった。

 

 お土産の「柿もなか」や「柿の葉すし」は職員や家族に大好評だった。ほかにも「にゅうめん」や「飛鳥鍋」、最近はかき氷が盛り上がっていると聞き、奈良には美味しいものがたくさんあると実感した。

 

個性的なフォルムの「大和丸なす」

 

 ー奈良県の食と観光の可能性や今後期待することは。

 

 奈良の食のポテンシャルは非常に大きいが、その魅力はまだ十分に発信できていない印象がある。逆に言えば、〝伸びしろ〟が非常に大きいと感じている。

 

 お茶やうどん、まんじゅうや豆腐、清酒など奈良がルーツの食材は多い。それらをストーリー化し、歴史遺産や景観と合わせて体験できれば、〝食〟が奈良観光の大きなマグネットになりうる。

 

 実はミシュランの星付きレストランも多く、奈良県が取り組むNAFIC(県立なら食と農の魅力創造国際大学校)では、卒業生がプロの料理人として地域の食を支えていく人材となっていて、期待が大きい。

 

 奈良には、世界に誇れる様々な歴史文化・遺産と豊かな自然がある。それらと食を結びつけることで、奈良の観光の魅力は、さらに大きく広がるのではないか。

 

 

魅力豊かな奈良の歴史と「食」

観光庁 国際観光部長
金子 知裕氏に聞く

金子 知裕氏

 

 

 ー「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」奈良県開催の意義は。

 

 ガストロノミーツーリズムは、新しい旅行スタイルとして注目されている。食にまつわる歴史や文化、食材の生産者、さらには食器などについて幅広くとらえ地域の食文化に触れる旅行を指す。地域のことを深く知りたいという、意識の高い旅行者が関心を寄せる。国連機関のUNWTOが、2015年から世界各地でフォーラムを開催している。国内初開催で、アジアではバンコクに次いで2カ所目となる。

 

 日本食は海外で非常に関心が高く、魅力的な観光資源なので、食は観光政策の中でも重要なポイントだ。

 

 前回のフォーラムは、昨年11月にベルギーのブルージュで開催された。レセプションに奈良の料理が提供されると、すぐになくなる人気ぶりだった。奈良は、いろいろな日本食や清酒の発祥地といわれている。これを機に、食と共に奈良の歴史文化をアピールし、参加者と地域の人々が触れ合うよい機会になってほしい。

 

奈良のブランド牛肉「大和牛」を使ったひと皿

 

 ー地域の気候風土が育んだ、伝統や歴史文化などによって培われた食文化が見直されている。その土地の食文化に触れるツーリズムの魅力は。

 

 地域の食材を活かした食事を通して、そこで育まれた文化を体感できるところが魅力。生産農家や加工業の現場を見て、ときには体験することで、その地域をより知ることに楽しみがある。

 

 昨今、地球環境問題への関心の高まりなどもあり、地域と環境との両立が大切になっている。それらを体現するのも、ガストロノミーツーリズムの意義だろう。地域経済の活性化にも貢献できる。

 

 ーコロナ禍収束後、訪日外国人に日本の食文化の魅力を発信する方策は。

 

 情報発信には、二つのポイントがある。一つはSNSなどデジタルの手法を使って効果的、効率的に情報を届けること。ポストコロナを見据えて、新しいコンテンツ形成を支援する事業を展開している。

 

 農業や漁業など、多分野の産業と連携したうえで、地域の観光資源をより魅力的なものにしていくため、専門家によるアドバイス提供などの支援を行う。

 

 二つ目は、情報の中身で魅力的なコンテンツを伝えることが重要。日本政府観光局が、海外に向けて情報発信を行っている。特に欧米やオーストラリア、アジア諸国は、日本食への関心が高い。リピーターのほか、来日したことがない人々への情報発信も重要。今回のフォーラムでは奈良をはじめ、日本各地の魅力を発信したい。

 

 ー地域の食と観光にかかわる人材育成策は。

 

 幅広い分野の事業者をまとめながら計画を示し、実際に進めていくコーディネーター役の育成は必要だ。観光庁では、観光以外の仕事に携わってきた人を育成するプログラムを実施している。

 

 例えば滋賀大学では、温泉や発酵食をテーマに、ツーリズムのビジネスプランを組み、実践する講座があり、その事業を支援している。

 

 奈良県桜井市には「県立なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)」という、地域と食の専門家を育てる素晴らしい学校がある。これらは一朝一夕に成果が出るものではないので、継続した取り組みが大事だ。

 

 ー奈良県の食と観光の魅力は。

 

 奈良を訪問した際に、大和野菜や大和牛、地酒などいろいろな美味しいものをいただいた。観光庁の「『誘客多角化等のための滞在コンテンツ造成』実証事業」では、奈良県川上村の「奥吉野川上村『柿の葉寿司の里』育成事業」の支援や、吉野町のツアー造成事業への支援を行った。

 

 深い歴史と豊かな自然があり、世界遺産に認定された地域では、食と観光の魅力がそろっている。また、宇陀市は推古天皇の時代から、「薬草」と深い関係があり、薬草を活用したまちづくりが進められている。

 

 奈良は他の地域にない、多くの歴史文化的素材がある。それらを食と結びつけて、多様で魅力的なコンテンツ作りが可能だ。

 

大和野菜のひとつ「黒滝白きゅうり」

 

 ー奈良市にUNWTO地域事務所が設立された。その意義と今後の役割は。

 

 UNWTO本部は、スペインのマドリードにある。1995年、大阪にアジア太平洋地域を統括する地域事務所が開設され、2012年に奈良へ移転した。2カ所目は昨年、サウジアラビアのリヤドに中東地域事務所が開設された。奈良事務所は官民とアカデミアが連携し、持続可能な観光の促進等を目的として活動している。

 

 コロナ禍以前は奈良でも、観光客があふれてしまう「オーバーツーリズム」が問題となったと承知しているが、奈良事務所は、観光地の住民が暮らしやすい地域づくり、持続可能な観光地づくりをサポートしている。

 

 また、フォーラムなどの国際的なイベント、ワークショップの開催、出版物発行などを手掛けている。今後も、アジア太平洋地域を代表して、持続可能な観光の発展に主導的役割を果たしてほしい。

 

 2年間にわたり外国人観光客が来日できない状況が続くが、奈良県のフォーラムでは、多くの人をお迎えでき、楽しんでもらえる良い機会になれば、と願っている。

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