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国連世界観光機関 駐日事務所 本保代表に聞く - ガストロノミーツーリズム世界フォーラム

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食で実現 持続可能な観光 進化遂げた奈良を発信

 古都奈良の玄関口、JR奈良駅前にアジアで唯一、世界を見渡しても2カ所にしかない国連組織の地域事務所がある。それは今年、奈良市内で開かれる「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」を奈良県と共催する、国連世界観光機関UNWTOの駐日事務所。同事務所の本保芳明代表に、UNWTOの目指す観光やガストロノミーツーリズムについて語っていただいた。

 

インタビュー UNWTO駐日事務所代表 本保 芳明氏

「世界フォーラムは、進化した奈良の食と観光を発信する絶好の機会」と話す本保芳明・国連世界観光機関UNWTO駐日事務所代表(同事務所提供)

 

 

食で地域に好循環

 −UNWTOが追求されている「持続可能な観光」とは、どのようなものでしょう。

 

 本保 多くの旅行者が訪れる地域では、地元の人々の暮らしや自然環境などに負荷が発生するという側面があります。分かりやすいところでは、騒音やごみ問題など、実際に経験された方もおられるのではないでしょうか。

 

 このような課題の解決のために、UNWTOが提唱しているのが「持続可能な観光」。定義は「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と少し長いのですが、日本流に言えば、観光立国推進基本法の基本理念でもある「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という概念に近いと思います。

 

 −ガストロノミーツーリズムも、「持続可能な観光」につながるのでしょうか。

 

 本保 もちろんです。生産から消費にいたるまで、いわゆるバリューチェーンのすべての段階に良い影響があることで、持続可能性が保たれます。たとえば、付加価値の高い地場野菜の需要が伸びることで、奈良県の農業全体の底上げになったり、地域の飲食店が活性化することで、そこに働く人々が潤ったりします。食に関連する地域の総合力を発揮して、観光はもちろん、それ以外の産業や地域住民の生活に良い影響を与えるのが、ガストロノミーツーリズムの大きな特色です。

 

「第6回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」であいさつするUNWTOのスラブ・ポロリカシュビィリ事務局長=昨年11月1日、ベルギー・ブルージュ(同事務所提供)

 

 

食で連携 国際的な観光地の優良事例

 −「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」が、奈良県で開かれることの意義は。

 

 本保 歴史・文化、自然など豊かな魅力にあふれた奈良には、黙っていてもたくさんの人が訪れてくれます。ただし、国際的な観光地として評価を受けるためには、基本的なインフラ、泊まるところと食べるものの充実が欠かせません。

 

 非常に残念なことに、この2点について「奈良県は立ち遅れている」とのイメージが、広がったままになっています。同フォーラムの開催は、奈良県におけるガストロノミーツーリズムの推進はもちろん、食と観光にまつわるマイナスイメージを払拭(ふっしょく)する絶好の機会になると思います。

 

 

 −つまり「奈良は立ち遅れていない」ということでしょうか。

 

 本保 そうです。2019年から毎年、奈良県内で開催を続けているガストロノミーツーリズムの国際シンポジウムなどを通して、奈良の評価が変わってきていることを実感しています。「奈良は変わったね」「良くなっている」という声を頻繁に聞きます。まさに世界の目利きの方々が、そのように評価しています。

 

 まず、JWマリオットホテル(奈良市)をはじめとする国際的水準の宿泊施設の開業、あるいは計画が進んでいることで宿泊についてのイメージが上がっています。食については、国際的評価という観点でひとつの手がかりとなるミシュランで星をもらうようなレストランが、奈良県内にいくつもあり、ここ数年は、それ以外にも評判の良い店が確実に増えています。

 

 そして、忘れてならないのは、ガストロノミーツーリズムに関連する奈良県の施策が、非常に総合的、有機的であることです。

 

 

 −どのような施策が、評価されているのでしょう。

 

 本保 農業からレストランまで、バリューチェーン全段階の充実を念頭に置いた取り組みを継続しておられるところです。どこかが途切れたり、いずれかのレベルが低かったりすると、最終的なアウトプットが良いものになりません。

 

 大和野菜や大和牛など、地場産品のブランド化を図って質を上げ、マーケットを広げることで生産者が豊かになる。「なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)」で、より高度な人材育成にも努めておられる。さらに「眺望のいいレストラン」「おいしい奈良産協力店」などの認定や「奈良フードフェスティバル シェフェスタ」の開催。並行してホテル誘致作戦の効果も上がっており、連携による成果という点で、全国的にも数少ない優良事例となっています。

 

「第6回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」で実施された奈良県主催のランチレセプション=昨年11月1日、ベルギー・ブルージュ(同事務所提供)

 

 −とても心強いお言葉ですが、奈良県民としては、ちょっと戸惑いも感じます。

 

 本保 地元の方の、そういった反応に出合うたびに、インナープロモーションの大切さを痛感します。プロモーションというと海外や東京をはじめとする大マーケットなど、遠くに向けた発信に目が行きやすいのですが、奈良県民や奈良県内の食の関係者の皆さんに状況が良い方向に動いていることを伝え、自ら参画することでさらに良くなっていくんだ、と自信を持っていただくことは、とても大事なことなのです。

 

 

コロナ後の観光 その先へ

 −未来に向け、大きな希望を感じさせるお話を本当にありがとうございました。最後に私たちが、これから体験するであろう、コロナ後の観光についてお聞かせください。

 

 本保 国際的な動向としては「マグマがたまっている」という言葉がよく使われます。コロナが落ち着いたら国際観光は急速に回復する、国内観光も活性化する、というのが専門家の見方です。

 

 新型コロナウイルスの流行が始まる直前の2019年、世界の国際旅行者数は14億6千万人と過去最高水準を記録しましたが、この水準に戻るのが2024年、あるいはその少し後かな、というのが現時点での国際的な予測です。

 

 これを日本に当てはめると、今、ほとんどゼロに近いところまで減少しているインバウンドが、2年後には3千万人規模に戻るという計算になります。しかも、以前の増加は少しずつだったのが、コロナ収束後は一度にどっと戻ってくる。その状況にいかに摩擦なく対応できるか、これが非常に大事なことであり、また、難しい課題でもある。奈良の観光の持続可能性に黄色信号が灯るようなことが決してないよう、正しく先を見通した動きが求められると思います。

 

 

UNWTOとは

 

観光分野の国連機関

 国連世界観光機関UNWTO(本部=スペイン・マドリード、2003年に国際連合の専門機関化)は1975年設立。現在、世界160加盟国と6加盟地域、さらに観光関連事業者、教育機関、観光協会などの500を超える賛助加盟員で構成されている。


 「持続可能な観光開発の促進」など六つの重点事項を定め、負の影響を最小限に抑えつつ、観光が社会経済に最大限寄与することを目指して活動。貧困、気候変動、紛争など世界が抱える危機的課題の根本解決のために国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」達成の手段としての観光促進にも取り組んでいる。


 駐日事務所は1995年、アジア太平洋の観光の急速な成長を支援するため、UNWTOの初めての地域事務所として大阪府内に開設された。2012年に奈良市三条本町、シルキア奈良2階の現在地に移転。観光統計データや調査研究成果の周知、学術機関との連携などを通して、国・地域の観光振興施策を支援している。

 

 2017年からは、国連大学本部(東京都渋谷区)にも東京事務所が設置されている。なお、UNWTOの地域事務所は、現在、日本のほかにはサウジアラビアの首都リヤドにある。

 

古都奈良を拠点に発信するUNWTO駐日事務所=奈良市三条本町

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