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日常で使えるうつわを、柔軟に。陶芸工房 八鳥(はちどり) 見野大介

奈良市法華寺町にある「陶芸工房 八鳥(はちどり)」で作陶する、見野大介(みのだいすけ)さん。食卓に馴染むシンプルなうつわは全国にファンが多く、工房で不定期開催する陶芸教室も連日予約で埋まるほど人気の若手陶芸家だ。

 

 

スマートな作風とは対照的に、少年のようなあどけなさとおだやかな雰囲気をまとう見野さん。陶芸との出会いやこれからの作品づくりについて話を聞いた。

 

 

作風に縛られすぎず、柔軟につくる

見野さんがつくるうつわの特徴は、1つひとつろくろを回して手でつくったとは思えないほど形が整っていること。

 

 

 

淡くやさしい色合いも統一されていてスキがないように見えながらも、同じ作品でも比べてみるとわずかなゆらぎがおもしろみを感じさせてくれる。何より、シンプルで使いやすいことが支持されている大きな理由だ。

 

“ うつわをつくるときに大事にしていることは、日常で使えるものをつくること。家庭で使ううつわは取り出しやすように立ち上がりをつくったり、子どもでも持ちやすいようカップに指筋や凹凸をつけたりと実用性に重きを置いてつくっています。反対に、料理屋さんで使ううつわとなると実用性より料理を盛ったときの見た目の印象が大事になってきます。
誰がどこで使うかによって求められるうつわは変わってくるので、どんな人でも使えるよう作風に縛られずに柔軟につくるようにしています。”

 

 

 

また、見野さんの作品は、色々なタイプのうつわがある。シンプルなものからデザインに遊びをいれたものまで、1度につくる数も多い。なかなか1人でやっていてここまで幅を広げてつくることは簡単なことではない。 

 

 

 

“ つくりたいものが多すぎるんです。今まで見てきたものや経験したことが情報として点になって、つながって線になるような感じでアイディアが出てくることが多くて。生活すべてがヒントになって作品が生まれています。”

 

 

好きではじめた陶芸が、自分を苦しめることに

 

見野さんが陶芸をはじめたのは、20歳の大学生の頃、
きっかけは陶芸サークルだった。

 

“ もともとものづくりに興味がある中で陶芸サークルがパッと目に入って「あ、おもしろそう」と思ったんです。それでそのまま陶芸サークルに入りました。そこから陶芸のおもしろさにハマり、さらにうまくなりたい気持ちから大学卒業後は就職せずに、専門学校の陶芸科に入学したんです。とにかく陶芸漬けの毎日でした。朝から晩まで夢中になってのめりこんでやっていました。 “

 

専門学校卒業後は京都の宇治で作陶する陶芸家、岡本彰(おかもとあきら)さんのもとへ弟子入り。24歳~30歳までの6年間陶芸を学んだが、途中自分を見失い、悶々とする日々が続いたのだそう。

 

“ 弟子入り時代は陶芸の基礎的なことを教えてもらったのですが、3年経った頃に「自分は陶芸で何をしたいんだろう?」という疑問が出てきました。毎日の仕事に慣れてきて、新鮮さがなくなってきたということが大きかったのかもしれません。自分はこれからどうしたいんだろう、というやり場のない気持ちに支配されながら過ごす日々が続きました。”

 

うやむやな気持ちを抱え、先が見えない状況ながら30歳で師匠から卒業。心の置き場が揺らいでしまい途方にくれることに。

 

“ そのときはもう陶芸を続けたい気持ちもなくなっていた。あんなに好きだったのに...それくらい気持ちが落ちていたんです。”

 

 

原点に立ち返った、福祉施設での経験

 

そんな時、友だちの縁である「福祉施設」を紹介された。そして、この施設での出会いや経験が人生を吹き返す大きなきっかけに。

 

“ 京都にある、社会福祉法人施設を紹介してもらいました。ここは障害のある方(※以下、利用者)の就労を支援する施設で、僕が陶芸を教えることになったんです。最初は戸惑いました。ルールも人も今まで当たり前のようにやってきたやり方が通用しないんです。そもそも僕と利用者さんにとっての「いいもの」の認識にズレがありました。僕が思ういいものって、人がいいと思ってお金を出して買おうとするものですが例えばつくったうつわが厚くて重かったら家で使いたいと思わないなぁって。まずはそのゴールにあたる部分をしっかりみんなと共有して品質を高めていくことが最重要課題でした。"

 

教えることも、つくることも全て自分でやらなければいけない。見野さんにとっては初めてのことづくしで戸惑いながらも、大切にしていたのはつくり手と使う人に寄り添うスタンスでした。

 

“ その中で、最終的には商品として「売れるものをつくる」というミッションがあったので試行錯誤しながらうつわづくりに励みました。
そのためにスピード重視ではなく丁寧さに重きをおいてやったり、良いところを伸ばせるよう意識してやっていました。最終的にはものすごく品質の高いうつわができるようになったと思うんです。 ”

 

だんだんと自分のペースを掴んでいった見野さん。「遊び」から生まれるアイディアもたくさんあったと言います。

 

“ある日、僕は団子にした土に縦筋を入れて遊んでいたんです。そうしたら利用者さんが僕のつくったものを見て「かぼちゃみたい」とおもしろがってくれて...そのとき僕は「なるほど!」と思いました。そこから実際にかぼちゃの形を成形してみて、そこに実用できる機能性(ペンスタンド、メモ立てなど)を加えてみたのです。みんなの力で新商品が生まれた瞬間でした。”

 

 

 

“ こうやって偶然つくったものから、アイディアが湧き出てきて、商品化までできたこの福祉施設で過ごした5年半の経験はとても大きかったんです。そして、利用者さんと一緒につくることが自分にとってはとても楽しくなっていて。なんで陶芸を始めたんだっけ?という大切なところに立ち返ることができたんです。陶芸サークル時代の記憶、つくるのが楽しくて、教えることも楽しかったあの頃が新鮮によみがえってきたんです。 ”

 

 

 

楽しみながら間口を広げていきたい

 

福祉施設で働くことを通して陶芸の楽しみを思い出した見野さん。個人でも作品をつくり反響ももらえるようになってきた。

 

“「自分の作品」を出すようになって、もっとつくりたいという強い気持ちが湧いてきました。物件も探しはじめた頃にちょうど法華寺町の喫茶店を見つけたんです。設備もサイズもちょうどいいし、近所には平城京跡など自然が溢れている。人が来やすい場所にあって陶芸教室など開催するのにぴったりだと思い、ここに決めました。”

 

 

 

独立してから9年、見野さんの作品はここ数年で少しづつ注目されるようになった。

 

“ 軌道にのってきたのは本当に最近の話なんです。展示会やイベントに積極的に参加して作品を見てもらって、少しづつ人の目に触れるようになってきた。最近ではSNS経由で知ってもらえることも多くなってきました。そんな中でも陶芸が好きで、楽しむ自分であり続けたいなと思います。うつわを使ってくれる人も、教室に来てくれる人も同じように楽しんでほしいなって。そのために全力を尽くしたいし、これからも頑張っていきたい。”

 

見野さんと話していると、「楽しく」という言葉がよく出てくる。そうは言うけれど、なかなか目の前の仕事を楽しくやり続けるのは難しいもの。見野さんは普段の暮らしから楽しむことが上手で、遊びから生まれたデザインも多いことから、遊びと仕事の絶妙なバランスをきれいに保っているように感じた。それは弟子時代に自分を見失った経験が大きくて、だからこそ失いかけた大切なものを壊さずゆっくりとなぞるように作品づくりをしているかのように思えた。
最後に、これからの活動について聞いてみた。

 

“ 技術はまだまだ足りなくて、もっとうまくなりたいと常に思っています。足りないなら理想に近づくようにたくさんつくる。自分とイタチごっこをやっているような感覚ですが、その気持ちを忘れなかったらもっと上達できるかなと思ってやっています。そして、陶芸を通して1人でも多くの人にうつわの魅力を伝えていきたい。まずは自分でつくることや使うことを入口に興味を持ってほしいし、自分のものさしを持って納得してうつわを生活に取り入れるようになってほしい。その間口を広げたいなという気持ちでやっていますし、そのためには色んなやり方を積極的に取り入れていきたいと思います。
これからも自分の楽しいことと、人が楽しいと思えることとのバランスをうまくとりながら、『陶芸』を伝えていきたいと思います。”

 

見野さんの話を聞いた後、元気をもらったようで帰り道には新しいことに挑戦したり頑張りたい気持ちが清々しく湧いてきた。ただ、見野さんの前向きさの裏には、自分と向き合った形跡が色濃く残っていて表向きには決して見えない苦労や努力の塊があるからこそ奥行きがあるうつわが出来ているのだろうということも感じた。これから見野さんがどんな作品を生み出していくのか、ますます楽しみだ。

 

 

 

【プレゼント情報】※プレゼント応募期間は終了しました。

見野さん作品の中でも人気の「勾玉(まがたま)鉢」シリーズの一つを奈良新聞デジタルのスタンダード会員限定でプレゼントします。ご興味のある方は、会員に登録の上、ご応募下さい。

 

勾玉とは、日本歴代の天皇が受け継いできた三種の神器のひとつで、魔除けや邪気祓い、災難や悪霊から身を護れるお守りとして使用されてきたもの。そのかたちをモチーフにしてつくられたうつわなのです。

 

 

中をのぞくと紫や青色がうっすらと見えて、吸い込まれるような淡い色が控えめに主役の食材を引き立ててくれます。勾玉の、動きのあるかたちもアクセントに。

 

 

深さもしっかりあります。煮物などの汁ものをいれても大丈夫です。

 

 

 

[取材協力]陶芸工房 八鳥(はちどり)

ライター・撮影松下恭子

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