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奈良にはポテンシャルがある。世界的なクリエイター田中耕一郎が語る奈良の魅力とは?

ユニクロのウェブプロモーションとして製作された「UNIQLOCK(ユニクロック)」や、動物の求愛表現を擬人化したインターネットフィルム「ACT OF LOVE 〜愛は、行動するもの。〜」など、その優れたアイデアと高い映像クオリティで、世界的な評価を受けているクリエイティブディレクター田中耕一郎氏。

 

奈良で生まれ、高校までを奈良で過ごした田中耕一郎氏の目に、奈良の魅力はどう映っているのだろうか。東京のオフィスで話を聞いてきた。

 

 

奈良の良さは「観光地化されていないところ」かもしれない

 

―― 田中さんから、奈良はどう見えていますか?

 

まだ、イメージが顕在化されていないというか、「奈良といえば何だろう」というときに、「鹿」と短絡的に出てくるというところがもったいないと思います。でも、一方で、観光地化されすぎていないという、少しハードルが高い感じが悪くないなという気もしています。

 

―― ハードルが高くていいんでしょうか。

 

地方にとってのコンテンツは何かというと、やはり、その時、その場に行かないと体験できないこと。春に吉野の西行庵に行ったんです。3畳くらいの小さな庵を見るためだけに山を登っていく。こういう体験はいいなと思いました。森に行ったら、まあすごいですよね。生きているなと思いませんか? 森が。元気をもらえます。

 

―― 吉野ではAirbnbとのコミュニティハウス吉野杉の家がけっこう人気で、そこを目当てに、海外からもお客さんが来るみたいです。

 

その吉野杉の家に泊まりたかったんですよ。奈良というのは、ニュースから程ほど遠いというか、逆に、タイムレスなトピックに向いていると思います。今のニュースというよりは、そのトピックを長い時間楽しめるような。やっぱり、いい意味で奈良は奥まっているというか、プレゼンスが弱いというか。自分たちをPRしようとしていない感じがありませんか?

 

―― 確かに、そうかもしれませんね。

 

僕はそういう自己PR下手みたいなところ好きですけどね。奈良がルーツになっているものは多いけど、あまり知られていないですよね。「え? それも奈良がルーツなんだ!」という。ものごとを掘り下げてルーツをたどっていくというのは、とても知的で、エンターテインメントの一つのあり方だと思っていて。ある程度大人になってくると、いろいろなものが奈良に繋がることがわかってくる。これは、奈良で生まれ育って、良かったなと思うところです。

 

―― 万葉集なども大人になってみると、別の見方が生まれたりしますよね。

 

小学校の頃、嫌でしたよね。なんで読まされるんだろうと。でも、1300年前に、人が文章を書いていて、奈良の風景を詠んでいるわけじゃないですか。風景を見て、エモい気持ちになって、短い文を紡いでいるのを想像しながら読み、自分がそれに感動する。すると、1300年というタイムラグが消える感覚があって、すごいなと思うんです。

 

「なんでだ」を突き詰めてきた

 

 

―― 田中さんが作られる広告や映像を見ていると、もの凄く丁寧に、時間をかけて仕上げられている印象を受けます。


はい、すごく時間をかけて作ります。それこそ時給に換算したらめちゃくちゃ安いんじゃないでしょうか(笑)

 

―― 性格的なものも影響しているんですか?

 

あるかもしれません。

 

―― 小さい頃から、何事にも丁寧に取り組む性格だったんですか?

 

そう言われてみると、小学生の頃からその毛があったかもしれません。運動会って10月にあるじゃないですか。

 

―― はい。

 

夏休みの前から、毎晩公園に行って。月明かりに自分の影が映るじゃないですか。走っては、その影で自分のフォームをチェックして。下が砂利になっているので、自分のステップの跡がついたところをメジャーで測って、今日はストライドが何センチ伸びた、なんてことをやっていました。

 

―― 引いてしまうぐらい緻密な小学生ですね。

 

ちょうどそのとき『月刊陸上競技』という雑誌に「カール・ルイスのストライド走法」という記事が載っていたんです。それまではピッチ走法という、100メートルでどれだけ回転数を上げられるかというものが主流だったのに対して、カール・ルイスはピッチの数は少なくてもストライドが長ければ良いというもの。最初はスピードが出ないのですが、後半からぐっと伸びていく。あの走りがものすごく美しく感じて。出会って、初めて「本当に美しい」と私が思ったのは、たぶんカール・ルイスの走りなんです。だから、カール・ルイスの写真を見て、そのフォームに近づけるよう、走って、影を見て、ストライドを測って。それで運動会にのぞんでいました。

 

―― 成果はどうだったんでしょう?

 

前の年に100メートル走で負けた子に勝ちました。 

 

―― もの凄い成功体験ですね。完全に今の仕事のやり方に通じていますね(笑)

 

そうかもしれませんね(笑)

 

企画とは、思い出すこと

 

―― 田中さんの映像のお仕事の中でも「ACT OF LOVE」が大好きなんですが、あの企画はどのように生まれたのですか?

 

出典:KOICHIRO TANAKA, PROJECTOR

 

お題は、「0.01ミリのコンドームを、世界にPRせよ」です。この場合、薄さにフォーカスするのが順目です。でも、なかなかいいアイデアが出てこなくて。そんな時、Youtubeで鳥の求愛映像を観たんです。もう必死なわけですよ。アクションが。それが滑稽で切なくて。「動物の求愛」というテーマはその時浮かびました。


実は「本の図鑑」がメインコンテンツなんです。動物行動学者と共に作った「動物求愛図鑑」を、国内外の書店、ギャラリー、ホテル、Amazonなどで発売するという企画が軸にあります。映像をつくるきっかけは、相模ゴムの社長さんです。図鑑の企画をとても気に入ってくださった後に、ぽつりと「図鑑だとおそらくヒットしないけど、やりましょう」って、おっしゃったんですね。


もうスタッフみんな社長のファンになってしまって。図鑑を話題化するアイデアとして、映像案を加えたんです。テーマを踏まえると、映像はノンフィクションがいい。それで、「街中で突如くり広げられる求愛ダンス」という切り口をつくりました。表現のトーンは、チャップリンの無声映画がヒントになっています。ことばじゃなくて、アクションで純粋に愛を伝える。その可笑しみや切なさが、テーマと重なって見えたんですね。

 

―― クリエイティブディレクターとして、仕事上、心がけていらっしゃることがあれば教えて下さい。

 

クリエイティブディレクタ―の役割は、いろいろなアイデアが出てくるなか、そのプロダクトにとって一番深くて、一番広いことを見極めることだと思っています。アイデア自体は自分から出てきてもいいし、他の人から出てきてもいい。企画って、ゼロから生むのではなく、基本的に思い出すことだと思うんです。靴下のブランドTabio(タビオ株式会社)では「靴下というプロダクトが持っている最も根源的な記憶ってなんだろう」という所を掘り下げました。結果出てきたのが「滑った記憶」です。

 

出典:KOICHIRO TANAKA, PROJECTOR

 

―― 自分の記憶の中にこそ、本質が潜んでいるということなのでしょうか。

 

ブランディングの仕事というのは、そのプロダクトや企業を、シェアラブルなものにする、みんなが感情ごと記憶にできるようにしていくということだと思います。そこの鉱脈を見つけていくという、ある意味、非言語的なこと。トレンドみたいなことではない。記憶を掘れば掘るほど、タイムレスになっていきます。そういうものが見つけられれば、プロダクトをつくっている人が気付かなかった「何か」をビジュアライズしたり、外に出していったりということにつながっていきます。それこそ価値をつくる仕事だと。

 

―― なるほど。

 

奈良はちょうどいいサイズだと思う

 

―― ところで、田中さんは紙の新聞を読みますか?


紙は読まないです。ニュースが集約されているアグリゲーションメディアを使いますね。昨日の情報を今日紙面化しているという点では、新聞は相対的に見て英語で言う「NEWS」ではなくなっている。だけど地方紙に限って言うと、地方紙ならではの役割があるかもしれないですね。

 

 

―― 情報を届けるという役割以外のところで、地方新聞はもっとできることがあるのではないかと思っています。

 

ある種のアングルを持っていることは強みですよね。奈良新聞を、奈良というコンテンツを様々な切り口で発信していくコンテンツプロバイダーと捉えるというか。外から見ていると、自分たちが見過ごしがちな価値というのはあると思います。奈良はもっといけるという感じがある。

 

―― いけますか?

 

町家なども含めて、町並みそのものがコンテンツじゃないですか。私は時々、恵比寿の日本茶のカフェに行くんですが、そこにあるのは静岡茶と奈良茶(大和茶)の2種類です。やはり大和茶はおいしいですよね。

 

―― 田中さんは、奈良に関するお仕事をやってみたいという願望はありますか?

 

ぜひやりたいですね。日本は素敵だけど、観光という視点で見たときに、まだまだもったいないところがある。奈良県も含めて。奈良の人口はどのくらいでしたっけ?

 

―― 約140万人です。
※平成29年10月現在1,348,257人(「奈良県推計人口年報」平成30年3月 奈良県総務部知事公室統計課より)

 

その規模感というのも、武器になると思う。ヨーロッパを代表するような都であるコペンハーゲンや、アメリカのポートランドなどは、もっとこじんまりしています。住む場所と、その周りに自然がある。何よりも、歴史がある。ラグジュアリーはそういう方向に向かって行くのではないかと思っています。

 

―― 確かに奈良にも自然と歴史があります。

 

都市というのは、基本的にはあらゆる手立てで欲望を刺激する、一つの装置だと思うんですが、そういう都市の欲望みたいなものから、奈良は適切な距離を持っている。でも、そこに文化があって、単に自然のあるところに行きましょうということとはまた違う。その、さじ加減が絶妙だと思っているんです。

 

―― 奈良が持つべきスタンスに対して、イメージはありますか?

 

観光、観光と、あからさまなプレゼンテーションをするよりは、元々暮らしている人のスペースに宿泊できるような、暮らしを体験できるような機会が増えていくと、奈良のような場所は、自然に、盛り上がるだろうと思っています。本当にいい体験には、お金に換算できない価値があると思うんです。欲望を刺激されに来るような人にとってみれば満足できないかもしれないけど、そうじゃない人、欲望から離れたい人にとっては、それも一つのラグジュアリーです。「暮らすように旅をする」という視点で奈良を体験できると、とても面白いと思います。

 

―― 奈良の日常こそがコンテンツになるということですか?

 

はい。そういう面では、日本のなかの人より、外側の人のほうが発見しやすいかもしれないですね。海外の人の目線で、もっともっと開いていくというのはあるような気がします。だから、富裕層向けの、ものすごく高いツアーとか、あってもいいと思うんです。ものの良さを本当に知っている人、世界中を旅しているような人が奈良に来れば、すごいと思ってもらえるはず。

 

―― そうすると「観光客を増やす」という目標設定ではないのかもしれませんね。

 

観光客を増やそうとしないというのも、一つの手だと思いますよ。観光客が増えてごちゃごちゃするよりは、世界を旅しているヨーロッパの妙齢の夫婦が奈良に来て、「いろいろ旅したけども、奈良は素晴らしい」と言ってもらえるような体験ができれば。

 

―― 今日は貴重なお話の数々、ありがとうございました。ぜひ今度は、奈良の良さを再発見できるプロジェクトでご一緒できると嬉しいです。

 

ぜひ、やりましょう。

 

 

田中耕一郎
クリエイティブディレクター    
73年奈良県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2004年、PROJECTOR設立。東京を拠点に、国内外の企業・省庁・自治体のブランディングや企画に携わる。カンヌ国際クリエイティブ賞グランプリ、イギリスD&AD最高賞、メディア芸術祭優秀賞など受賞多数。

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