特集奈良の鹿ニュース

金曜時評

相談窓口の拡充を - 編集委員 辻 恵介

 介護することがどれだけ大変な作業か、先日この年になって初めて、母を看取る際に体験した。体の向きを変えて清拭(せいしき)すること一つとっても、訪問看護師さんに教えられた通りにできなかった。体力だけでなく、細やかな神経が必要な、かなりハードな作業であることがよく分かった。

 そんな、大人でも過酷な作業を、中学生・高校生らが日常的に強いられているとしたら…。そう案じていた矢先、「ヤングケアラー」という言葉が紙面にあった(13日付11面)。「(病気などでケアが必要な)きょうだいや家族の介護や世話をする18歳未満の子ども」のことをそう呼ぶそうだ。

 厚労省と文科省が行った初の実態調査で、「世話している家族がいる」とした中学生が5・7%(約17人に1人)、高校生が4・1%(約24人に1人)いたことが分かった。うち2~3割が父母の世話をし、理由は身体障害が目立った、という。40人クラスに1~2人いる計算になり、予想以上の人数だといえよう。

 こうした家庭の事情から学習活動に支障をきたし、クラブ活動などやりたいこともできなくなっているとしたら、極めて不公平な実態だ。心理面や体調面への深刻な影響も懸念される。疲労や睡眠不足などから学校生活に支障をきたしても、教師や周囲に理解されないまま、不登校になるケースもあるという。

 ヤングケアラーは、学業や進路への影響だけでなく、同世代からの孤立を招く、との指摘もあるようだ。少しずつ自分の進路を決めていく、人生において大事な時機に、大きな負担をかけられては、たまらない。

 また、「世話をしている中高生の6割超が誰にも相談したことがない」という現状は、何としても改善しなければならない。両省は、福祉サービスにつなげる仕組みを整理し、5月にも相談窓口拡充など支援の政策をまとめるそうだが、一刻も早く実現してもらいたいものだ。

 埼玉県では、2020(令和2)年春に全国で初めて「支援条例」を制定した。また神戸市では、ヤングケアラーを支援する専門部署を、この4月に新設。本人や周囲で気付いた関係者などからの相談や情報を受ける窓口を設けて、学校や関係機関による支援を実行に移すという。

 若者の健全な身体と精神を育むためにも、孤立しない・孤立させない積極的な取り組みの全国的な広がりを期待する。

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