金曜時評

将来見据え議論を - 編集委員 高瀬 法義

 平城宮跡(奈良市)を横切る近鉄奈良線の移設について、県と奈良市、近鉄が合意し国に計画書を提出した。宮跡の景観保全と、交通渋滞の原因になっている周辺の踏切解消に向けて一歩前進した。

 平城宮跡内の近鉄奈良線は同社の前身、大阪電気軌道(大軌)が大正3年に敷設。当時は宮跡の認知度も低く大きな反対もなかったが、昭和27年の国特別史跡指定のほか、同36年の貴重な文字資料である木簡の初出土など調査研究の進捗(しんちょく)で保存整備の機運が高まった。平成10年の世界遺産登録や同20年の国営公園化決定時にも宮跡内の近鉄線が景観保全上の問題とされた。

 同29、30年に踏切道改良促進法改正で宮跡内を含む大和西大寺駅周辺から新大宮駅付近にかけての踏切8カ所が「改良すべき踏切道」に指定。県は踏切の改良計画を国に提出する義務が生じため、奈良市や近鉄と検討を進めてきた。

 計画では大和西大寺駅を含む区間を高架化するとともに以東の奈良線を移設。国営平城宮跡歴史公園を避けて南側の大宮通り沿いへカーブするルートで高架から地上に降り、同歴史公園を過ぎた付近から地下化する。工事の完成は40年後の令和42年を予定する。

 しかし、実現に向けては課題も多い。最大の課題は巨額な事業費だ。計画書では工事費だけで1260億円と記載。県と奈良市、近鉄の3者の負担割合は未定だが、財源の多くは「税金」であり次世代への負担となる。県の人口ビジョンによると、県の人口は現在の約132万人から令和42年度には約84万人まで減少すると予測。税収減とともに交通量の減少も予想され、慎重な需要予測が求められる。

 また、宮跡周辺の埋蔵文化財への影響も危惧される。移設ルートは宮跡を外れるが、有力者の長屋王の邸宅跡が見つかるなど宮跡周辺も奈良時代の「一等地」であり、貴重な遺跡が眠っている可能性がある。また、工事が宮跡の地下水脈にも影響を与え、水分が少なくなることで木簡などの埋蔵文化財が失われる危険性も考えられる。

 宮跡を電車が横切る現在の景観についても「見苦しい」という声がある一方で、復元された第1次大極殿や朱雀門が見える車窓の景観は観光客から人気が高い。

 それでも、大和西大寺駅周辺の「開かずの踏切」が奈良市の都市計画を考えるうえでの大きな障害になっているのは確かだ。公共投資により何を変え、何を残すか。次世代のまちづくりを見据えた議論が必要だ。

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