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金曜時評

鉄道遺産を生かせ - 編集委員 辻 恵介

 王寺といえば、古くから「鉄道のまち」として知られている。JR大和路線・和歌山線、近鉄生駒線・田原本線が通り、東西南北、どこへ向かうにも便利だ。そのJR王寺駅が、12月27日に開業130周年を迎える。

 明治23(1890)年のこの日、奈良県初となる大阪鉄道会社の王寺―奈良間が開通し、当時の王寺村久度に停車場ができた。開通前の明治10(1877)年には、わずか37戸の小さな集落だったという。広大な田んぼが広がり、集落の外れに神社がある典型的な農村風景だったそうだ(同町広報紙12月号から)。

 大東建託の賃貸未来研究所が11月に発表した「街の住みここちランキング2020」では、王寺町が全国1位に輝いた。実際にその自治体に住む人たちの居住満足度を調査したもので、全国35万人余りの回答から八つの項目別に集計。「交通アクセスの良さ」「親しみやすさ」「行政サービス」「物価・家賃の手ごろさ」が高い順位となったようだ。こうした評価は地理的条件に恵まれた同駅の存在があればこそのことだろう。

 あまり知られていないが、同町には「三井住友」「三菱UFJ」とメガバンクの支店が二つあり、全国的にも郡部に複数あるのは珍しいという。駅の南口・北口からは、近隣の町へバス路線がつながり、王寺駅の利用人口は県内でも指折りの多さで、道路も国道25号、168号が通る交通の要衝だ。

 先の広報紙には、鉄道ファンには懐かしい昭和46(1971)年のD51三重連の写真も掲載されているが、この時の先頭895号機は引退後、駅東の大和路線の側の児童公園に設置されている。毎夜、ライトアップもされているが、観光客らに十分知られているとは言いがたい。駅の西には、線路の下をくぐるカルケットと呼ばれる生活道路があり、一部に開業時のものと思われるレンガ橋台も残る。

 こうした鉄道遺産を効率的に生かすには、近隣にある複数の遺産を結び付けてルート化することが必要だ。大阪府柏原市の亀瀬隧道(亀の瀬トンネル)や、三郷町の近鉄・信貴山下駅前にある旧東信貴鋼索線の車両、斑鳩・安堵町にある天理軽便鉄道(法隆寺線)の廃線跡・築堤、レンガ造りの橋台など鉄道遺構を回るマイクロバスツアーなどいろいろ考えられる。

 来年、コロナウイルスの“封じ込め”がうまくいき、再び人々が自由に往来できるようになって、こうした取り組みが動き出すことを期待している。

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