募集「悩み」や質問募集 僧侶3人がお答えします

金曜時評

市民の理解も重要 - 編集委員 高瀬 法義

 人々に豊かな恵みをもたらす自然だが、一度牙をむくと恐ろしい災害を起こし、人々の生命や財産に多大な被害が発生する。文化財もその例外ではなく、毎年のように台風や豪雨、巨大地震などの被害が報告されている。

 国立文化財機構は今月1日、文化財の減災と災害時の初動対応の迅速化を図るため、「文化財防災センター」を新たに開設。本部(事務局)を奈良市二条町2丁目の奈良文化財研究所(奈文研)内に設けた。機構内の奈文研や東京文化財研究所(東文研)の2研究所と、奈良国立博物館(奈良市)など4博物館で組織。奈文研を西日本ブロック、東文研を東日本ブロックの中核拠点とする。

 災害による文化財の被害を出さないことが、同センターの「究極の目標」。被害が出ても最小限にとどめ、甚大な被害が発生した時には効果的な救援、支援を図る。事業としては、地域防災体制の構築▽災害時ガイドライン等の整備▽レスキューおよび収蔵・展示における技術開発▽普及啓発▽文化財防災に関係する情報の収集と活用ーの五つを柱として掲げる。

 文化財の防災対策に注目が集まるきっかけになったのは、平成23年3月の東日本大震災だ。国指定などの文化財だけでも700件以上被害があり、激しい揺れによる建築物や美術工芸品の損壊だけでなく、津波による有形民俗文化財の流出や古文書類の水没など被害内容も多岐に及んだ。国立文化財機構は震災の「文化財レスキュー事業」を2年間実施。その活動を基盤として平成26年には文化財に関する全国的なネットワークを構築し連携強化を図ってきた。

 災害時には住民の安全や生活が最優先となり、文化財が被災しても市町村の担当者は即座の対応が困難だ。さらに人員不足や担当者の知識・経験不足などで、有効な処置が取れないケースもある。こうした中、最先端の設備と技術を持ち、各研究所や博物館などとの兼任が中心ながらも50人以上のスタッフをそろえる文化財防災の常設機関が生まれたことは、わが国の文化財保護を考える上で意義深いといえる。

 古い民家などでは、指定文化財以外にも古文書類などが眠っている場合がある。災害という非常時には関心の低さや知識不足から、地域にとって貴重な史料が破棄されてしまう恐れもある。今後は被災文化財支援への体制づくりや技術開発とともに市民の理解を得る啓発活動も、重要な役割の一つになるだろう。 

特集記事

人気記事

  • 奈良の逸品 47CLUBに参加している奈良の商店や商品をご紹介
  • 奈良遺産70 奈良新聞創刊70周年プロジェクト
  • 出版情報 出版物のご購入はこちらから
  • 特選ホームページガイド