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金曜時評

国家的危機なのか - 論説委員 増山 和樹

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け、安倍晋三首相が新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正に動き始めた。4日には野党各党に協力を要請、12日にも衆院本会議で採決され、可決の見通しだ。

 改正は特措法の対象に新型コロナウイルスを加えるもので、同法に基づき首相が「緊急事態」を宣言すれば、都道府県知事は外出禁止要請などの措置を取ることができる。私権を制限することになるため、同法の成立時には、日本弁護士連合会(日弁連)が反対声明を出した経緯がある。

 安倍首相は野党各党首との会談後、記者団に「国家的な危機にあっては与党も野党もない。互いに協力して乗り越えなければならない」と語った。もっともらしく聞こえるが、果たしてそうだろうか。

 先月25日に発表された政府の基本方針は、重症者への対応などで、「国家の危機」は感じられなかった。イベントや行事の自粛要請は翌26日、さらに翌日には空前の休校要請と政府方針は大きく揺れた。国会でも論戦となったが、何がこれだけ急激な措置を取らせたのか、具体的な説明はついになかった。生活を直撃する施策が矢継ぎ早に示され、国民が混乱するのは当然だ。

 そのような中で緊急事態宣言が出されれば、混乱に拍車が掛かるのは避けられない。宣言に沿って出される措置はもちろん、「緊急事態」という言葉によって増幅される不安感が、国民生活をさらに萎縮させるのではないか。結果は景気にも影響する。

 首相の言葉は国家危急の事態に悠長に議論している暇はないとも取れる。小中高校に一斉休校を求めた際、「判断に時間をかけているいとまはなかった」と繰り返したことにも通じる姿勢だ。

 「与党も野党もない」のではなく、必要であるなら、与野党が積極的に議論して国民にそれを示すべきだろう。新型コロナウイルス感染症の拡大で、国内経済は急降下の恐れが出ている。国民の理解がないまま事を進めれば、それこそ非常事態を招きかねない。より慎重なかじ取りが求められる。

 改正案に対する姿勢には野党内でもばらつきがあり、立憲民主党など3党は賛否を別々に議論することを申し合わせた。「国家的な危機」が前面に出ると、議論の本質が見えにくくなる。大切なのは何が起きているのか、今後何が予想されるか冷静に判断し、国民の不安を少しでも軽くすることだ。与野党の論戦に期待したい。

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