金曜時評

「語り伝える」使命 - 編集委員 辻 恵介

 令和になって初めてのお盆を迎えた。30余年の平成の時代を経て、戦争体験者が次第に消えていき、ますます昭和の時代が遠くなっていく。終戦記念日を過ぎたこともあり、今回は個人的な話を書くことをお許しいただきたい。

 亡父の兄は、陸軍兵士としてビルマ(ミャンマー)に渡り、戻って来なかった。母の話によると亡父が母と結婚した当時、毎晩決まった時間に、胸が苦しくなり目が覚めたという。夢枕に立ったお兄さんが「おまえが、うらやましい」と話したらしい。気の優しい父だったから、「自分だけ幸せになって申し訳ない」という思いが、そうさせたのかもしれない。その時間は、お兄さんが亡くなった時間帯であることが後に分かった。

 そんな話をした母からは、疎開先の桑畑で、背中に親せきの赤子を負ぶって歩いていた時に、急に爆音がして、山の頂上からいきなり米軍機グラマン3機が現れ、機銃掃射を受けたことをよく聞かされた。海軍鎮守府があった佐世保に近かったせいだろう。

 奈良県内でも、榛原や県内各地で機銃掃射や爆撃を受け、非戦闘員が犠牲になった。そうした事実を風化させまいと、戦争遺跡を保存し、語り継ぐ活動を地道に続けている人たちがいる。だが、その証言者も高齢化が進み、運動の継続には世代交代や引き継ぎを円滑に運ぶことが課題となっている。

 昭和世代が「常識」と思っている、太平洋戦争のことや広島・長崎への原子爆弾の投下など、実体験を聞く機会を得られない世代が、今後増えていく。教育現場や家庭で、史実をきちんと教え、核軍拡などがもたらす未来の恐怖について、語り伝えていく取り組みが、ますます重要になってくる。

 そんな折、ロシアの海軍実験場で起きた爆発事故が「原子力を用いた新型ミサイル」だった可能性が浮上。米ロが原子力利用の兵器開発を急ぐ実態が浮き彫りになった。愚かな核軍拡競争を止めるため、唯一の被爆国日本だからこそ、今やれることがあるはずだ。

 太平洋戦争で亡くなったのは、軍人・軍属230万人、民間人80万人、合計310万人という。アジアや世界各地での犠牲者を含むと、膨大な数字となる。

 今日の世界平和や日本の繁栄が、こうしたあまたの犠牲者の存在の上に成り立っていることを改めて感じておきたい。多くの人々が、無念の思いを抱いたまま亡くなったことを忘れてはならない。戦争体験を聞いた私たちには、無念の思いを伝える使命がある。

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