さい銭のキャッシュレス化が始まっているという。投げ入れるのは硬貨ではなく電子マネー。スマートフォンを使った決済サービスを導入したところ、集まった金額がさい銭箱の10倍に増えた寺もある。

　ずいぶん前になるが、大滝ダムの建設で移転した丹生川上神社上社の発掘調査で、さまざまな時代のさい銭が見つかった。

　1枚1枚にどんな願いが込められていたのだろう。水の神様だから雨乞いはもちろん、家内安全や夫婦円満、戦中なら武運長久を祈る参拝者もいたかもしれない。

　山田洋次監督の映画「キネマの天地」で、こんなせりふがあった。「小銭、湿ってるでしょ。年端もいかねぇでっちの小僧が握り締めて、『今度の活動(映画)、おもしろい?』って聞くんですよ」。

　映画館の支配人と映画監督の会話と記憶するが、さい銭のキャッシュレス化を聞いて思い出した。

　首相自ら買い物でアピールするなど、キャッシュレス化は世の流れ。これからさらに加速するが、せめてさい銭ぐらいは、と思うのが人情だろう。湿った1枚の硬貨にこそ、御利益があってほしい。(増)