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金曜時評

公共施設の耐震化 - 論説委員 松井 重宏

 県内の学校や医療機関、行政施設の耐震補強について遅れが問題化している。総務省消防庁がまとめた昨年3月31日時点の調査によると、防災拠点となる公共施設などの耐震化状況は、対策済みが全国平均で93・1%だったのに対し、県内は86・5%にとどまった。これは全国で43位、近畿2府4県で最下位。県が掲げる「日本一安全で安心して暮らせる奈良の実現」にはどうすれば良いのか、一層の奮起と新たな工夫も求められそうだ。

 昨年来、注目を集めている課題に県立高校の耐震化がある。県教委は整備を順次進めているものの、同11月現在で未対応の県立高校が9校21棟あり、全校の耐震化が完了するのは平成34年度になると県に報告した。その多くは、耐震診断で早期の対策が求められていたにもかかわらず、費用面などから対応が先延ばしされていた施設とみられ、生徒や教職員の安全をなおざりにしていたと批判を浴びた。

 また問題化の発端となった奈良高校については、構造耐震指標(Is値)が文部科学省の基準より著しく低い同校体育館を奈良市が第2次避難所に指定していたことが分かり、慌てて解除する事態に発展。

 こうした「判明した危険性」が、結果として軽視されていたケースは、県教委だけにとどまらない。県や市町村など他の公共施設についても似た状況にある。災害時に「想定外」をなくす努力が求められているのに、それどころか「想定していたが未対策」が相次ぐようでは話にならない。各自治体とも来年度予算案の編成時期を迎え、事業の優先順位見直しが急務だ。

 一方、県立高校の耐震問題では県や市、県教委の間で、責任の所在が問われる場面もあったが、防災は県民の生命にかかわる重要事項であり、当然、すべての公的機関に責任がある。そして権限についても“縄張り”に固執せず、幅広く衆知を結集して臨む姿勢が必要だろう。その意味で、きのう知事が奈良市議会で講演、市庁舎の耐震化問題について考えを参考案として示した取り組みは、異例と言えばその通りだが、新しい「奈良モデル」になり得るか。

 施設の耐震化には時間がかかるが、これまで本当に可能な限りの努力が払われてきたのか。阪神大震災の発生から24年。既に四半世紀近い時間が経過した中で、課題を厳しく問い直し、さらに問い続けることで改善を図るとともに、行政も県民も、防災意識の高まりに結びつけたい。

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