金曜時評

郷土史に学びたい - 編集委員 山下 栄二

 今年は明治150年。安堵町出身で明治時代に政治家、実業家として活躍した今村勤三を主人公とした伝記的小説「大和維新」(植松三十里著、新潮社)が発刊された。11月4日には同町で作者を招いた文化講演会が開かれる。明治維新後に一時「独立」を失った奈良の再置に尽力し、奈良のプライドを取り戻した今村の業績は大きい。

 旧大和国は維新後に奈良県となったが、明治9年に堺県に編入、さらには同14年に堺県ごと大阪府に編入された。行政は大阪優先となり、奈良の人々はたびたび不利益をこうむっていたという。堺県や大阪府の議員を務めていた今村は、同志らとともに奈良再置運動に乗り出す。

 庄屋だった今村の生家は現在、安堵町歴史民俗資料館として公開されている。常設展示には「置県を働きかける陳情は困難を極め、東京での長期滞在など、仕事に忙殺される日々が続きます」「運動に要する莫大(ばくだい)な費用を負担するために、家産も傾きかねない程」などと記されている。運動から6年の歳月を経て今村らの活動が実り、明治20年に奈良県設置が裁可され、翌年に今村は初代の県会議長になる。

 勤三の伯父・今村文吾は幕末の医師であり、尊皇攘夷(じょうい)を掲げ大和で挙兵し、維新の先駆けともいわれる天誅組の後援者としても知られた。志士の一人、伴林光平は今村家に出入りしており、勤三も大きな影響を受けたとされる。維新と奈良は縁遠いと思われがちだが、そうではない。

 学校教科書に奈良が登場するのは古代から奈良時代まで。中世、近世、近代の奈良についてはわれわれの盲点だ。浅学な筆者はこれまで今村らの功績についての知識はほとんどないが、おそらく県民の多くが同様であろう。もっと郷土史を学ぶ必要がある。奈良県の関西広域連合加入問題がとりざたされた時、奈良の不利益を危ぐして反対した中には、郷土の歴史に精通した人がいたのではないか。

 最近、指摘する人が増えたが、日本歴史の教育は、近代、現代が軽視されているといえよう。資料が多く残っている近代、現代が正確であるし、現代人の思考、生活にも近いはずだ。明治150年、歴史から学ばなければならないことは多い。

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