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金曜時評

変わる覚悟を持て - 編集委員 松岡 智

 今月の厚生労働省などの発表によれば、今年3月卒業の大学生の就職率は98・0%で過去最高を更新した。高校生も98・1%で8年連続で上昇。景気の回復基調による企業の採用意欲の高さがうかがえる。県内の学生、生徒も同様の傾向のようだ。

 一方で県内企業の人手不足は深刻化している。南都経済研究所の今春の調査では、正社員の人材が不足していると答えた企業は全体で70・3%。約4年前の前回調査を12・8ポイント上回った。産業別では製造業75・2%(前回比22・5ポイント増)、非製造業65・6%(同3・3ポイント増)と、将来の企業存続すら懸念される状況だ。

 県内経済団体は現況緩和へ会員企業の支援を展開。合同企業説明会の実施や大学、高校と企業とのマッチング推進、求職者への企業情報発信強化などを実践する。ただ、売り手市場で求職者の大手志向が強い中、特に状況が厳しい業界にあっても人材を確保し、離職者もほとんどない県内中小企業も存在する。そこでは効率のいい働き方の構築や、従業員へ自社情報を積極公開して経営側との距離を縮め、事業への参画さえうながすといった中小ならではの働きやすい職場への体質改善が図られている。

 逆に言えば、経営者の考えが時流に乗れず、非効率な職場環境のまま従業員を二の次にしていたり、人材育成や地域に愛されているなどの他社より優れたアピール点のない企業は危うい。残念ながらそんな県内企業も少なからずあるようで、所属の経済団体が支援策を講じても求職者の選択外になる可能性は強い。現在の求職者間の負の情報の拡散速度は思いのほか早い。

 生産年齢人口の減少で、人材争奪は今後さらに激化が予想される。人材確保が進まず、離職率が高いなら、自社の状況を客観的に見直して原因の根を早急に突き止め、まだ間に合う部分であれば県や国の機関の知恵を借りてでも改善するしかない。

 大手企業は人材確保のため、賃上げを含む多様な働きやすさへの施策を導入し、不足を高卒にも求めるようになっている。人材確保に苦慮する中小、零細があきらめ、動かぬままでは、そこで終わるか、実績を残す先行企業との差が広がるばかりだろう。経営者は将来を見据え、覚悟を持って会社の在り方までも再考し、変わっていくべきではないか。もちろん先行企業でも、従業員との良好な関係や優良な職場環境を保ちながら常に学び、さらに上を求める動きが滞るなら、明るい未来は見通せない。

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