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金曜時評

個人の意識改革を - 編集委員 山下 栄二

 大手広告代理店の女性社員が過労死自殺した事案をきっかけに長時間労働などを改善する働き方改革が、大きな社会問題として浮上している。ただ、労働と一言でいっても会社規模や職種によって違いは大きく、国会で働き方改革関連法案についての扱いがこれまで難航してきたように、働き方改革は一筋縄でいかない課題だ。

 30年以上前になる。筆者の新人記者時代、やむなく休日に出勤して原稿を執筆していたら、当時のデスクがニコニコして、「記者は1日でも休むと原稿が書けなくなるからな」。隣りで先輩記者が「休日に出勤すると、プレッシャーなくノビノビ仕事ができる」と喜々としていた。えらい仕事を選んだものだと痛感した。

 新聞だけでなく雑誌もそのようだが、記者の仕事は労働時間がはっきりしないことが多い。夜中や早朝に事件、事故で仕事をしたら、昼間はリラックスしてしまう。それを誤解され、「新聞記者は、警察署の応接室でふんぞりかえってたばこを吸っているだけじゃないか」と親せきから言われたことがある。仕事量など自分でやってみないと分からない。他人の仕事のうわべを見てとやかく言うのは愚の骨頂だ。

 前述のデスクのように、高度成長期を支えてきた人たちの間には、こうした「仕事がいきがい」人の割合が多かった。「休まないイコール善」なのである。過労死や過労自殺者を出してしまった会社の上司も、悪意や故意ではないのではないか。「成功するためには、超勤や休日なしは当たり前」との哲学があり、それが今の時代には通用しなくなっているのだ。

 欧州には、年に1カ月の長期休暇取得が法律で決まっている国がある。日本を訪れる観光客には何週間も滞在する人たちがいるのもそのためだ。

 「労働力を売っているだけ」とのドライな考えと、日本人の国民性の違いもあるだろう。個人主義の欧米と異なり、集団帰属意識の強い日本人は、自分の仕事をするに際して他人や上司の目を気にし過ぎだ。何もすることがなくても、周囲の目がある手前、パソコンで仕事をしているフリをしている人を役所などでよく見かける。削ることのできる無駄な労働時間は多い。

 5日に自民党が政府の働き方改革関連法案を了承、今後国会での審議が注目されるが、働き方改革に魂を入れるためには、「仕事と休み」にメリハリをつける個人の意識改革が必要ではないだろうか。

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