金曜時評

価値理解と両輪で - 編集委員 増山 和樹

 国の文化審議会は先月、文化財の保存と活用で地方への権限移譲などを柱とする答申を林芳正・文部科学大臣に提出した。文化庁は答申を反映した文化財保護法改正案を本年度中に成立させたい考えだが、活用は文化財の価値の理解と両輪で進める必要がある。

 答申は過疎化や少子高齢化など、社会環境の変化に伴う文化財保護の担い手不足を挙げ、「文化財が散逸・消滅の危機に瀕(ひん)している」として新たな保護制度の整備を求めた。

 新たな制度下では、市町村が地域の団体や住民の声を生かして保存・活用の地域計画を策定、国は計画を承認した市町村に権限を移譲し、重要文化財の建物周辺で行う道路などの整備や金属・石製品の型取りは市町村で許可できるようになる。登録すべき文化財を国に提案することも可能だ。都道府県は全体を見据えて大綱を策定する。

 有形、無形を問わず、文化財の保護は地域への関心と郷土愛を育てることにつながり、担い手不足に地元一丸で向き合う意義は大きい。地域の事情に通じる市町村が軸となるならなおさらだ。

 大切なのは活用が文化財の価値の理解の上に行われることである。それがなければ町おこしに終わるばかりでなく、保存に悪影響を及ぼしかねない。地域計画の策定ではさまざまな意見が出るだろうが、行政はそこをしっかり押さえる必要がある。望ましいのは「本質的な価値」に沿った活用で、催しなどの参加者も、文化財の価値を自然な形で理解できる。若草山のモノレール構想が論議を呼んだが、景観も文化財の一つである。 

 そのためにも、文化財の専門職員を置き、文化財保護に取り組んできた教育委員会の役割は大きい。文化財保護法が改正されれば、首長部局が文化財行政を主導する場面も増えるだろう。そんな中でも、経済効果に目を奪われて専門職員の意見が軽視されることがあってはならない。「本質的な価値」を損なわずにどのような取り組みが可能か、互いの経験をぶつけて議論を重ねてほしい。

 奈良県には天平の至宝を今に伝えた正倉院がある。南都の寺々では戦火と廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)を乗り越えた多くの仏像が参拝者を迎えている。先人の偉業を踏まえ、今後、どのような形で文化財を伝えていくのか。全国のモデルケースとなるような取り組みに期待したい。

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