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金曜時評

監視社会への恐れ - 編集委員 辻 恵介

 「森友問題」の発覚以降、貴重な国会審議の時間が削られ、与野党ともに相当なエネルギーと時間が費やされたが、結局うやむやなまま幕引きされそうな気配。国民のモヤモヤ感は、うっ積している。

 そこへきて、今週に入ってから政治家の「問題発言」や「身辺問題」による辞職など、不祥事の連鎖が起こっている。山本幸三地方創生担当相の「一番のがんは文化学芸員」発言▽沖縄県うるま市長選の野党系候補の学校給食費無料化を巡る公約について「詐欺行為にも等しい沖縄特有のいつもの戦術」とした自民党の古屋圭司選対委員長によるフェイスブックでの批判▽女性問題で経済産業政務官を18日に辞任した、自民党の中川俊直衆院議員の行動―。

 公明党の山口那津男代表は19日の党会合で、安倍政権の政務三役から不用意な言動が相次いでいることについて、「著しく緊張感を欠いている」として強い不満を表明したそうだが、当然のことだろう。

 「朝鮮半島情勢が緊迫」と言われながらも、冒頭の一連の国会議員の言動や行動を見ていると緊迫感は薄い。自民党は3月の党大会で、党総裁の任期を「3期9年まで」と正式決定したが、野党のふがいなさもあり、長期安定政権の様相が漂うことも、緊迫感のなさの背景にあるようだ。

 そんな中、いわゆる「共謀罪」法案が19日に衆院法務委で実質審議入りした。犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案である。過去3回廃案になったものを「対テロの看板に付け替えて、国民が反対しにくい状況をつくる」と、その狙いを指摘する法曹関係者もいる。

 犯罪には「共謀(計画)、予備・準備、未遂、既遂」の各段階があるとされ、日本の刑法は実行後の処罰が原則。未遂より前の段階での処罰は極めて例外的な扱い。一度「例外」を作れば、いつのまにか広がってしまうというのが、世の常ではないか。

 安倍首相は「東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策は喫緊の課題」として、早期成立に意欲を示している。対する野党は「国民への監視が強まり、社会が萎縮してしまう」と廃案を求めている。

 首相は「捜査は法令に従って適切に行われるから、一般の人が対象になることはあり得ない」などと答弁しているが、本当に信用していいのかどうか。政府の説明に対して、国民の多くが「捜査機関による乱用の懸念や不安」を持つのではないか。

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