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金曜時評

災害から学ぶこと - 編集委員 松岡 智

 きょう11日で、1万8千人を超える死者、行方不明者を数える東日本大震災の発生から5年になる。残念ながら、被災各自治体の首長が語るように、復興は思い通りには進んでおらず、多くの被災者が不本意な生活を余儀なくされている。

 大規模災害のたびに、我々は災害への備え、対応を学んできた。県内でも県や各市町村が、それぞれ災害対策の基本となる地域防災計画などに反映してきたはずだ。

 少し気になるデータがある。共同通信が5年の節目に合わせて全国自治体に行ったアンケート調査では、同震災発生以降に同計画を改定して地震などの被害想定を引き上げたか、予定する市区町村は全体で67・6%だった。ただ県内に限ると、39市町村のうち12市町村30・8%にとどまった。

 また、震災後の住民参加の避難訓練実施状況では、高齢者や要支援者も参加の避難訓練を実施した県内自治体は15市町村38・5%(全体は61・3%)。訓練自体実施していないところも11自治体28・2%あるなど、いずれも全国で最下位レベルだった。

 すでに十分な計画が作られていて、海なし県で津波被害が考慮不要だったり、意向はあったが諸事情で訓練実施に至らずの例などがあったのかもしれない。ただ、数値だけで判断するなら、住民の命、安全を守る立場としてはいささか心もとない。

 もちろん、災害対応への充実度は、こうしたデータだけで測れるものでもない。ただし、計画や訓練は基本であり、東日本大震災で生死を分けた一つが、繰り返された訓練であったことも忘れないでいたい。

 そんな中で、県が各市町村と連携して防災、減災に取り組む「奈良モデル」での対策は、新年度にも新たな事業提案があり期待したい。温度差のある市町村の対策を平均化して引き上げる可能性があるからだ。

 もっとも、減災には、個人レベルでの備えがより重要であることも、あらためて心に刻んでおきたい。危険箇所、要因の日常的な把握と対処、災害時に行政の支援が届くまでの準備といった自分の身を守る基本的方策は、今さら当たり前と言われるだろうが、今一度見直しておくべきだろう。

 内閣府はかつて、今後30年で70%の確率で起こり得る南海トラフでの巨大地震で、県内死者が最大約1700人との予測を公表した。そんな見通しにあらがい、過去の災害に学んで適切な準備と対応で命を守りたい。それが過去の災害で犠牲になった人々への供養にもなるだろうから。

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